ステンレスと鉄はここが違う – 「SUSはサビにくい」を実験検証

バイク用パーツにも多用されるステンレスは、サビに強くてお手入れも簡単、しかも高強度。スチール(鉄)やアルミとは性質が大きく異なる、この素材の魅力を探ってみましょう。

目次

ステンレス=サビを寄せつけない合金

鉄とは違い、サビにすこぶる強いステンレス。台所の流し台、スプーン、フォーク、包丁、冷水や温水の配管、蛇口…。ステンレスは、いわゆる「水回り」に多用されますよね。

そもそもステンレスは、スチールではすぐにサビてしまうような、水回りに使用するために発明された金属。

ステンレスは金属元素(鉄、アルミニウム、金、銀、銅など)ではなく、鉄にクロムやニッケルを混ぜることで耐食性をアップさせた、いわゆる“合金”。英語表記は「Stainless steel」で、『汚れ(サビ)をレス(寄せつけない)するスチール』という意味。JIS規格(日本工業規格)を始め、金属を取り扱う業界では「SUS(Stainless Used Steelの略)」と明記するのが常識です。

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ステンレスは鉄にクロムやニッケルを混ぜることで、表面に不動態皮膜と呼ばれるサビに強い酸化皮膜を形成。この皮膜は極めて薄く無色透明なため、肉眼では確認できないのが特徴。

バイクや自動車のパーツにはSUS304を使用

一口にステンレスといっても様々なタイプがあり、用途によって使い分けられています。バイク用や自動車用のパーツは、入手しやすく耐食性や耐熱性に優れ、溶接に適した「SUS304(300系のオーステナイトという種類)」というポピュラーな素材を用いるのが一般的です。

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写真上は製品の材料となるステンレス板。この材料の表面にはステンレスの種類を示す「SUS304」の文字が表示されています。

ステンレスの特徴

熱の伝わりやすいスチールに比べ、ステンレスは熱が伝わりにくいのが特徴。カップ焼きそばの湯をステンレスのシンクに捨てる時、時間差で「ボン!」と音がする原因はコレです。

その一方で、ステンレスはスチールよりも保温性が良好。水筒やポットの内壁に、アルミではなくテンレスが繁用されるのはこのためです。

保温性が良い=放熱性に劣るということ。熱を持ちやすい自動車やバイクのエンジンパーツなどに、放熱性に優れたアルミを採用するのはこれが理由です。

ステンレスはスチールや銅よりも電気を通しにくいという特性を持っており、通電箇所に使われることはまずありません。

ステンレスの種類

系統 300系 300系 400系 400系 500系
種類の名称 オーステナイト オーステナイト・フェライト(二相系) マルテンサイト フェライト オーステナイト
クロムの含有量 18% 23~25% 13% 18% 17%
ニッケルの含有量 8% 6~7% 7%
その他の含有量 3% 1%
磁性 無(一部を除く)

ステンレスと鉄の見分け方

スチールとステンレスは見分けが付きにくいもの。見分けるためには、基本的に磁石を使います。バイク用や自動車用のパーツは、磁性(磁石に引っ付く性質)のない300系のSUS304がメインです。

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ここがポイント!

「すべてのステンレスは磁石に引っ付かない」と思っている人もいますが、これは間違い。SUS300系を使った商品でも、各物質の含有量の大小によって磁性のあるタイプがあります<詳細は上記の表組を参照>。

ステンレス製ボルトとスチール製は、見分けが付きにくいのがポイント。写真下はステンレス製ですが、比較的強い磁性があるため、400系のマルテンサイト(具体的にはSUS410。このタイプはボルトに多用。ただし磁性のないはず300系にも、ごく稀に磁性のあるものが“紛れて”いる場合もある)だと思われます。

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ボルトに関する豆知識

ステンレス製ボルトはスチール製よりも高額。スチール製ボルトからステンレス製ボルトに交換する場合、ボルト本体の剛性がアップする傾向にあるため、スチール製ボルト以上に締め付けトルクの管理をしっかりと行うことが必要です(取り付けパーツを痛めることがある)。

これはステンレスよりも剛性が高く、軽量で、サビに強く、高価なチタンボルトに交換する時も同様です。

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実験1、ステンレスは本当にサビに強いのか?

鉄にとって水はもちろん、塩水は大敵です。ステンレスにも何らかの影響が出るのでしょうか? 

そこでステンレス製とスチール製の2本のボルトを用意。毎朝塩水に漬け、屋外に放置。その状況を繰り返しました。

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今回の実験には、M8×30mmサイズのボルトを使用。写真左がステンレス、写真右がスチール。どちらも色味が若干異なりますが、JIS規格適合製品なので姿カタチはまったく同じです。

一週間後

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ステンレスは一部にわずかなサビが発生しているのみで、非常にキレイな状態。一方、スチールは表面に大量のサビが発生。スチールはもちろん、サビに強いはずのステンレスにとっても塩分は大敵。

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ステンレス

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スチール

二週間後

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二週間後、ステンレスはキレイな状態。ただしスチールはさらにサビが酷くなっています。

海風や海水には要注意

巷でよく言われるのが「内陸よりも海の近くで使ったバイクやクルマは痛みやすい(サビやすい)」ということ。これは海から吹きつける潮風、つまり潮風に含まれる塩(塩化ナトリウム)が、スチールやステンレスに含まれる鉄の酸化(サビ)を促進させるから。

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潮風以上に鉄がもっとも嫌う物質は、今回の実験で用いた塩水。テレビや映画などで海岸を走りながら水しぶきを上げる走るオフロードバイクやSUV車、見たことあるでしょ? あれって一見楽しそうだけど、後のお手入れが滅茶苦茶タイヘンです(真水での徹底した塩水の洗い流しが必要。これを怠れば数日でバイクや車はボロボロになってます)。

雨はもちろん、普通の水(水道水などの飲料水)も鉄を酸化させる要因のひとつ。洗車後はウエスできちんとふき取り、風通しの良いところでしっかりと乾燥。乾いたら表面にメッキ保護剤を塗布し、カバーを掛けて(屋内保管が理想)保管しましょう。

ステンレスはスチールよりも重い?

厚さ1mm×縦1000mm×横1000mmの鉄板の場合、スチールは約7.8kg、ステンレス(SUS304)は約7.93kg。ステンレスの方が130gほどヘビーです。130gといえばファミレスのハンバーグ1個分程度の重さ。バイク用マフラーの場合、各部の仕様が同じならば、ステンレスもスチールも重さはほとんど同じだといえます。

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ただしステンレスはスチールよりも剛性が高いため、薄い素材が使える。つまりスチールと同等の強度を保ちながら、軽量化が実現できるのもポイントです。重量を公表しているマフラーメーカーもあるので、「お、このメーカーは薄手のステンを使ってるようだな?」等々チェックしてみるのもオススメですよ。

素材が薄くなればなるほど、マフラーの溶接や曲げは難しくなる一方、軽量化が実現します。スチール製よりも日常のお手入れが簡単なため、やや高額ですがステンレス製を選ぶユーザーも多数います。

ボルトの重さを計測

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1g単位まで計測可能な重量計にて、JIS規格のM8×30mmボルトとM8ナットの重さをチェック。ボルトステンレス・スチールとも15g、ナットはステンレス・スチールとも5gという結果でした。

ステンレスはスチールよりも値段が高額

ボルトとナットは小さなパーツだが、価格には倍以上の開きあり

一般的にステンレス製商品の価格は、スチール製よりも高額です。

身近な例を挙げればボルトとナット。M8ナットの場合、スチール8円、ステンレス18円。またM8×30mmボルトの場合、スチール24円、ステンレス55円(どちらもJIS規格品。某ホームセンターでの価格)。いずれも2倍以上の価格の違いがあります。

素材の価格がスチールよりも高額で、しかも穴開け加工や削り加工、曲げ加工などがたいへん。バイクや自動車のマフラーを含め、ステンレス製の製品が高額なのは、それらが値段に反映されているのです。

バイク用マフラーの価格例

商品 価格
A社スチール製マフラー 1万1000
B社スチール製マフラー 1万6000
C社ステンレス製マフラー 3万円
D社ステンレス製マフラー 3万7000

ステンレスは加工がタイヘンなの?

ステンレスはスチールよりも高剛性。一方で素材が硬く粘りがあるため、削り、穴開け、曲げ加工はスチールよりもタイヘンです。

過去にスチール、アルミ、ステンレスの10φ×30mmの長穴加工の実験を行ったことがありますが、素材の柔らかいアルミは40秒、スチールは3分30秒。そしてステンレスは何と5分10秒という結果でした。

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写真下は「プレスブレーキ」という工作機械を使って、金属板を曲げているところ。ステンレス板を曲げる場合は、スチール以上の圧力を掛けなければ曲がってくれません。ちなみに厚みのある5mmの板を曲げる場合、スチールは無音でしたが、ステンレスは「ギシギシ」という鈍い音を発しました。

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最後に:メンテナンス方法と保管方法

ステンレスは「サビない金属」ではなく、「サビにくい金属」です。メンテナンスを怠れば、下記のようにサビは発生します(表面が茶色くなる)。

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ステンレスの手入れの基本は水洗い。汚れが酷い場合は、ステンレスにも使える洗浄剤や研磨剤(キズの付着に注意)を使用しましょう。

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