酷く不愛想な実演販売の手品師を見た

某デパートにある玩具売場の片隅で、手品を披露しながらトランプを販売する、酷く無愛想な男(三十歳前後)を見たことがある。

実演販売の手品師

男の前に客がいることは滅多になかった。その理由は彼が酷く無口で、無表情で、不愛想で、おおよそ客商売というものに不向なだけではない。

男が手品を披露しているその場所は、客の目には付きにくい、「本当にトランプを売る気があるのだろうか?」と突っ込みたくなるような、エスカレーターの上り口のすぐ脇にあるからだ。客の大多数は彼の存在に気付くことなく、上の階へ次々と消えてゆく。

目の前に客がいないにもかかわらず、男は決してサボろうとはしない。まるで電源に接続されたロボットのように、淡々とカードマジックを披露し続ける。

実演販売の手品師

男はゼンジー北京やマギー史郎のような、トークを交えた人情派の手品をしない。かといってミスターマリックのような、強烈なエンターテナー性もない。なんべんも言うが、一貫して無表情かつ不愛想なのだ。

ごくまれに、彼を見つけた小学生が見物していることがある。

実演販売の手品師

しかし彼は、

(俺はお前らなど眼中にない)

(この俺に話しかけるな)

と言わんばかりに、子供らの存在を己の視界から消し去るがごとく、一切無視。

ステッキの中から煙とともに鳩が出てくる、派手でお茶目な手品ならともかく、トランプを使った地味な手品ということもあろう。

また、あまりにも無機質な彼の雰囲気に、一種の薄気味悪さを感じるのであろう。最初は興味深げに見ていた子供たちは、静かにその場を立ち去ってゆく。

実演販売の手品師

ある日、50歳くらいのオバチャンが手品師を見つけるや否や、彼のもとにつかつかと歩み寄っていった。

「お、これは珍しい。手品に興味があるのだな? それともトランプ購入か?」

と思って見ていると、オバチャンはカードを操る彼に向かい、近所の魚屋の兄チャンに話しかけるようなくだけた口調で、

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「ちょっとお兄さん、婦人服売場はどこなの?」

と問うた。

彼は急遽手品を止め、一瞬オバチャンをギロリとニラんだかと思うと、やや怒気を含んだ口ぶりで言った。

「知りません」

7

 

次の日、その玩具売場から手品師の姿は消えていた。

 

以上は僕が学生時代、そのデパートで館内掃除のアルバイトをしていた時に目撃した実話です。

下記のカリスマ実演販売人によれば、実演販売には「外してはいけない3つの柱」があるのだという。

僕は実演販売を15年にわたってやってきたなかで、外してはいけない3本柱があることに気付きました。商品力、宣伝力、ロケーションの3つです。3本柱のバランスが取れたとき、ものすごくいい売り上げが出るのです。

商品力に関しては僕の場合、季節に関係なく売れるものと考えて、ドイツ製のハンガーに行き着きました。宣伝力とは僕たち実演販売をする人間の仕事そのものです。そしてロケーションに関しては、やはりお客様が流れているメーン通路角地がいい。なかでも実演販売の世界では天国の場所という意味の「天場所」があります。そのとっておきの場所とは、下りエスカレーター前なのです。なぜか?

その答えは、買い物を終えた人たちが通るからです。上りエスカレーターに乗っている人たちは目的があって移動しているので、まず寄ってきません。ところが買い物を終えた人は余裕があるので、「ほかに何かあるかな」という気持ちになっています。そのとき目の前で実演販売をやっていて、2、3人が見物していたら「ちょっと覗いてみよう」と寄ってくるのです。

出典:カリスマ実演販売人が指南! 短時間で心をつかむ技

お気付きかもしれませんが、手品師は上記の3つのすべて、とはいかないまでも、2.7くらいは外しています。

しかし彼の「商売人としての」存在および立ち振る舞いは、ある意味超越しています。

オバサンに婦人服売り場を聞かれた彼は、

「俺は手品師だ。店内案内なら、受け付け嬢にでも聞け」

と言わんばかりに、怒りを露にしました。

いくら臨時の実演販売師とはいえ、そのデパートで働く男。婦人服売場が何階にあるのかを知らないはずはありません。

おばさんがお客様センターに怒鳴り込んだ結果、彼はクビになったのでしょうか。

それとも実演販売に嫌気がさし、辞めてしまったのでしょうか。

その真偽は分かりませんが、トランプゲームをするたび彼のことを思い出します。

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北 秀昭

4ミニ.net運営者。兵庫県生まれ。千葉県在住。サイト運営のほか、モーターサイクル専門誌や情報誌のライティングやディレクションなどを手掛ける。サイト運営によってウィンしたSEOやライティングなど、「生のウェブマーケティング」をMAXに活かしていきたいと思う40+α歳。趣味はジョギング。人生の最大の喜びは家族とのバカ話。