馬力(PS)とトルク(kgf・m)の違い – 馬力はあるけどトルクのない車両の特徴

バイクや自動車のカタログなどに表記された『トルク(kgf.m)』と『馬力(PS)』。一見、「数値が高いほど凄い」と思われがちなトルクと馬力だけど、そこには驚くほど難解な工学理論や数式が隠されています(さらにいえば、マフラーの太さ、マニホールドの長さ、ミッションやスプロケットのレシオ、プーリーの変速タイミングなども複雑に絡み合い)。トルクと馬力って、一体どこが違うのでしょう。

目次

トルクと馬力(パワー)は、似ているようでまったくの別物

トルク=軸の回転力

「トルクをかける」「トルクレンチ」などにも使用される「トルク」という言葉は、基本的に軸を回転させる力のこと。エンジンの場合は、クランクシャフトに働く力、つまりクランクシャフトを回す力のことです。

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カタログなどではN・m(ニュートンメートル)とkgf・m(キログラムメートル)の両者が表記されていますが、国内では昔から使われているkgf・mが親しまれています。

どのエンジン回転数(rpm)で、クランクシャフトを回す力が最高潮に達するのか(これを最大トルクという)。これを知ることで、エンジンの性格やマシンの方向性を知ることができます。

馬力(パワー)=一定時間内のトルク仕事量

馬力とは、トルクが「一定時間内に」稼ぎ出す仕事量のこと。

カタログでは出力表示としてKW(キロワット)に加え、フランス表記のPS(ドイツ語であるPfede Starkeの略)が用いられていますが、国内では昔から親しまれているPSが浸透中です。

1馬力は、“1秒間に”約75kgの物を1m動かすことのできる力。“一定時間内に”“1秒間に”という言葉でも分かる通り、馬力は時間と密接に結びついています。

トルクと馬力は切っても切れない関係

今度はトルクと馬力の関係を、釘とカナヅチ(ハンマー)に例えて説明しましょう。

写真A写真Bカナヅチを使い、厚みのある木製の板に100mmの釘を打ち込みます。

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写真A

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写真B

写真Aは1回の振り下ろしで20mm打ち込める(この力をトルクと仮定)大きなカナヅチ

高トルクの写真Aは、2秒に1回のスローペースで打ち込みました。

写真Bは1回の振り下ろしで10mm打ち込める(この力もトルクと仮定)小さなカナヅチ

→低トルクの写真Bは、1秒に1回のハイペースで打ち込みました。

で、結果的にどちらも10秒で打ち込みが終了。ということは…。

どちらもトルクは違えども、同じ馬力を出力して仕事をこなしたことになります。

写真Bは振り下ろしの回数(回転数)を倍にすることで、写真Aと同じ馬力を稼いだのです。

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一秒でも早く仕事をこなす(馬力を出す)には?

「写真Aよりもさらに高トルクのカナヅチを用い、超ハイペースで連打すればいい」。この答えも確かに正解なのですが…。過剰なトルクで闇雲にペース(回転数)を上げ過ぎてしまった場合、釘は曲がってしまう=エンジンが壊れてしまいます。

一秒でも早く、しかも釘を曲げることなく(エンジンを壊すことなく)確実に釘を打ち込むには、

タコのように数本の手で低トルクの小さなカナヅチを持ち(多気筒化する)、釘が曲がらないようにストロークを短くし(レーシングエンジンのようにクランクシャフトをショートストローク型にする)、打ち込みのペースを上げる(エンジンの回転数を上げる)。

以上はかなり極端な例ですが、トルクと馬力は常に結び付いているんです。

<上記のおさらい>

大きなカナヅチ(高トルク)で馬力を稼ぐ

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写真A

打ち込む釘の寸法:100mm

振り下ろした回数(回転数と仮定):5回

仕事量(馬力と仮定):1回20mm×回数5=100

 1回の振り下ろしで20mm打ち込める、高トルクなビッグサイズのカナヅチ。こちらは写真Bの半分の回数(振り下ろし5回)で打ち込みが終了。打ち込みにかかった時間は10秒だから、計算上では2秒に1回というスローなペースでカナヅチを振り下ろしたことになります。もしも写真Bがペースを上げて打ち込み時間を5秒に短縮した場合、写真Aは1秒間に1回のペースにすれば同じ馬力となります。

打ち込みの回数(回転)を増やして馬力を稼ぐ

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写真B

打ち込む釘の寸法:100mm

振り下ろした回数(回転数と仮定):10回

仕事量(馬力と仮定):1回10mm×回数10=100

10秒で釘の打ち込み作業終了。振り下ろした回数が10回だから、1秒に1回のペースでカナヅチを振り下ろした計算。なお、ペースを上げて打ち込み時間を5秒に短縮(1秒間に2回打ち込み)すれば、倍の馬力(仕事量200)を出力することになります。 ※注:以上はあくまでもイメージであり理論上のお話です。

馬力はあるが、低中回転域のトルクがないマシン

CR110カブレーシングとは1960年代に活躍した、DOHC49ccエンジン搭載の市販レーサー。

→ DOHC4バルブ49ccエンジンのCR110カブレーシング

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最高出力は4スト49ccながら、馬力は何と8.5PS。しかも最高出力時の回転数は、NSR50を遥かに凌ぐ1万3500rpmです。一見、「超高回転型の超パワフルなエンジン。ナンバーや保安部品を付ければ、ストリート最強」と思うかもしれません。

しかし最大トルクは1万1500 rpmという超高回転で、ようやく0.46 kgf・m。街乗りで多用するであろう低中回転域(3000rpmから6000rpm程度)では、クランクシャフトにかかる力が弱すぎて、まともに走ってくれないと予想されます。つまり高回転域でクラッチミートすればOKだけど、スロットルワークやクラッチワークがシビアになり、街中では扱いにくい。この現象を『トルクが薄い』『低速・中速はスカスカ』『下はスカスカ』などと表現します。

レース専用であるCR110は、1万1500rpm以下での使用は想定外なのです。別の言い方をすれば、超高回転域での馬力を稼ぐため、低中回転域のトルクを犠牲にしているといえます。

「常に1万1500rpmから1万3500rpmをキープだなんて、パワーバンドが狭すぎ。ミッションが6速じゃ足りないでしょ?」と突っ込んだ皆さん。そう、このマシンには8速ミッションが組み込まれています。このようなレース仕様の高回転型エンジンを『ピーキーなエンジン』と表現。サーキットで好タイムを出すには高度なテクニックが必要です。

バイクのミッションの変更

バイクのミッション:ギアレシオとクロスミッション

モンキーのエンジン分解 8 – クランクケースの分解・組立

DOHC搭載のレースマシン! CR110カブレーシング

エンジン:4スト49cc 最高出力:8.5PS/1万3500rpm 最大トルク:0.46 kgf・m /1万1500 rpm 重量:61kg

パワーバンドとは?

そのエンジンがもっともパワーを発揮する回転帯のこと。最大トルクの回転数から最大出力の回転数までの数値が目安となりますが(ノーマルのモンキーなら5000rpmから8500rpmあたり)、実際に走行し、タコメーターで確認するのが常識です。一般的にノーマルエンジンはパワーバンドが広く、非常に扱いやすいのが特徴。ただしレース用のフルチューンエンジンはパワーバンドが狭く、ビギナーにとっては扱いにくい傾向にあります。

馬力やトルクで分かる、マシンの特性や方向性

ポイントは、1台でも多く数値を比較すること

カタログからマシンの特性を知るポイントは、「最高出力」「最大トルク」また「車体の軽量さ」の数値を見比べてみること。1台でも多く比較することによって、それぞれのバイクの特性や方向性が見えてきます。「最高出力」とは、そのマシンの最高馬力のこと、「最大トルク」とは、クランクシャフトにかかる最大の力のことを示します。3台のマシンを比較してみましょう。

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4ミニカスタムに人気のモンキー

エンジン:4スト49cc 最高出力:3.4PS/8500rpm 最大トルク:0.35 kgf・m/5000 rpm 重量:68kg

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2ストスポーツ50の代表格、NSR50

エンジン:2スト49cc 最高出力:7.2PS/10000rpm 最大トルク:0.65 kgf・m /7500 rpm 重量:78kg

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99ccエンジン搭載、エイプ100Type D

エンジン:4スト99cc 最高出力:6.3PS/8000rpm 最大トルク:0.67 kgf・m /6000 rpm 重量:88kg

モンキーの場合、エンジンを8500回転(rpm)まで回した時、3.4PSを出力します。また5000rpmの時に0.35 kgf・mのトルクがかかります。ちなみにマフラーのフランジ部を締め込む時のトルクは、0.8 kgf・mから1kgf・m程度に設定するのが一般的。

モンキーのトルクは0.35 kgf・mですが、リッターバイクなら10kgf・mを越えるトルクを発揮します。この数値を見ただけでも、モンキーのエンジンがいかにスモールパワーなのか、またリッターバイクがいかにビッグパワーなのかがうかがい知れます。

NSR50はどうでしょう。ミニバイクレースでも活躍するパワフルな2スト水冷エンジンを積んだ同マシンは、1万rpmの時に7.2PSを出力。また7500rpmの時に最大トルク:0.65 kgf・mを発揮。モンキーに比べ、高回転域でモンキー以上の馬力とトルクを発揮しています。つまり、ガンガン回してこそパワーを発揮する、サーキットユースを視野に入れたスポーティーなエンジン特性であることが分かります。

4スト99ccエンジン搭載のエイプ100は、8000rpmで6.3PS。またNSR50を凌ぐ、4ストならではの0.67 kgf・mというトルクを発揮。1万rpmという高回転域で7.2PSを出力するNSR50に比べ、8000rpmで6.3PSを絞り出すエイプ100は、高回転域よりも低中回転域を重視したエンジン特性。「高回転を多用するレースではなく、ストリートでの扱いやすさを優先させたエンジンだな」ということが分かります。

数値を比較する上で注意したいのがスクーター。モデルによってはプーリーやウエイトローラーなどの駆動系パーツのセッティングにより、あえてスタートダッシュや加速性能が抑えられていることもあります(この場合、駆動系を社外製パーツに変更すれば問題はほぼ解決)。カタログの数値は、あくまでもエンジン単体の性能&特性であると理解しておきましょう。

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スクーターの駆動系

パワーグラフからエンジンの“欠点”を解読する

パワーグラフとは、エンジンの出力特性をグラフで示したもの(テストにはシャシーダイナモという測定器を使用)。アフターパーツメーカーのカタログなどには、マフラーやエンジンキット装着時のテストデータが掲載されている場合があります。

シャシーダイナモは後輪出力の測定(リアタイヤにフリクションがかかるため、メーカーのカタログ値よりも低い馬力になる)、パワーやトルクの出方や特性を知る時、キャブレターのセッティングなどに用いられます。

パワーグラフはバイクの心臓部を診断する、エンジンのX線写真

写真下のグラフは、縦軸が馬力、横軸が速度(回転数の場合もあり)を示します。

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青のグラフはエイプ100改(115cc)ですが、時速40km/hあたりで一度パワーダウン(矢印)。これを改善するため、社外製の軽量アウターローターに交換しました。その結果が赤の線。交換後はパワーダウン(パワーの谷間)もなく、時速70km/h付近までエンジンはキレイに吹け上がっています。また、軽量アウターローターの交換によって、すべての速度域においてパワーアップしていることが分かります。

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