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スーパーチャージャーのしくみと特徴

スーパーチャージャーのしくみと特徴

ターボチャージャーに並び、過給器の代表格ともいえるスーパーチャージャー、略してスーチャー(SC)。最近では四輪に採用されることもめっきり減ったこのシステムは一体どんなしくみ? どんな車に採用されていたの? バイクにスーパーチャージャーチューン車はあるの? 等々、スーパーチャージャーに関する事項をリサーチしてみました。

目次

スーパーチャージャーとターボチャージャーの決定的な違い

ターボチャージャー(略してターボ)やスーパーチャージャー(略してスーチャー、SC)は、「過給器チューン」とも呼ばれます。どちらも4ストエンジンのチューニングなどに欠かせない、四輪では定番のパワーアップシステムです。

スーパーチャージャーやターボチャージャーの過給器とは、風圧などの流体を回転運動に変えるコンプレッサー装置のこと。

ターボチャージャーのしくみと特徴

▲加圧した空気をエンジン内に送り込む遠心式スーパーチャージャー(四輪用/HKS製)。ターボチャージャー用タービン同様、強烈な風を送り込む送風システムです。

スーパーチャージャー(過給器)の原理

過給器とは、「より多くの混合器を燃焼室に導入し、燃焼力を増大させること」を目的とした装置。排気量を上げず、パワーを一気に引き上げることができる画期的なシステムです。

1:ロウソクの炎=エンジンのパワーだと仮定します。火を点けたロウソクを、ガラスの箱ケースで覆い、密閉します。

2:火は酸素がないと燃えません。密閉されたロウソクはガラス内の酸素を使い果たし、やがて失火します。

3:そこでケースに吸気口と排気口を設置します。

4:吸気口からウチワで空気(酸素)を送り、掃除機で煙を吸い取ってやれば、ロウソクの炎はスムーズに燃えます。これがエンジンの基本的な原理です。

5:ウチワを激しく扇ぎ、大量の空気(酸素)を送ってやります。すると炎はこれまで以上に激しく燃えます。この実験ではウチワ=過給器の役割を果たしています。

スーパーチャージャーは「空気の薄い上空」で発展

スーパーチャージャーの歴史はターボチャージャーよりも古く、「空気の薄い上空で、過給器(コンプレッサー)を使ってエンジン内に無理やり空気を送り込む必要のある」航空機への採用で一気に発展しました。

1:太平洋戦争の頃、戦闘機はレーダーや敵艦の砲弾から逃れるため、上空高く飛行。しかし高度が高くなるほど、空気は薄くなります。

2:山は上に登れば登るほど、息が苦しくなってきます。これはなぜか? 高度が高くなるほど空気が薄くなり、体内に取り組まれる酸素の量が少なくなるからです。

3:体内に取り組まれる酸素の量が少なくなると、頭痛や目まいを発症。いわゆる「高山病」です。高山病になった場合は、酸素スプレーを口と鼻に当て、体内に酸素を供給=過給してやる必要があります。

4:話を元に戻します。空気の薄い上空において、戦闘機のエンジンは本来の性能を発揮しにくい。そこでエンジン内へ「強引に」空気を送り込んでやる。これがスーパーチャージャーの原理です。

出典:storiesgadget

5:低・中回転からグングン加速するスーパーチャージャー。映画「マッドマックス」に登場のV8インターセプター(フォード ファルコン)。ボンネットからはスーパーチャージャーのコンプレッサー部が豪快に突出。「キュイーン!」という独特の金属音を響かせながら、ロケットカウル付きのカワサキZ1000を追いかけていました。

ターボチャージャーのしくみ

ターボチャージャーは4ストエンジンの、

①吸気 ②圧縮 ③爆発 ④排気

以上の4工程中の「④排気」で、勢いよく排出された排気ガスの圧力エネルギーを利用してコンプレッサー装置を回し、強制的に混合気を吹き込む、つまり「①吸気」の力を上げ、「③爆発」の力を増してパワーアップするシステムです。

ターボチャージャーのしくみと特徴

4ストロークエンジンの工程。吸気・圧縮・爆発・排気

スーパーチャージャーのしくみ

ターボチャージャーとスーパーチャージャーの決定的な違い。それは、ターボチャージャーが「④排気」の力を利用してコンプレッサー装置(ターボチャージャーの場合はタービンと呼ぶ)を回転させるのに対し、スーパーチャージャーは排気の力ではなく、クランク軸やカムシャフト軸などエンジンの動力を利用してコンプレッサー装置を回すという点です。

 ターボチャージャーは排気ガスの圧力を利用。一方、スーパーチャージャーはエンジンの動力(クランク軸やカム軸)を利用するしくみです。

イラストはVベルトによってクランク軸の回転をコンプレッサー装置に伝達するシステム。この方式はスーパーチャージャー付きのバイクに多用されています。

スーパーチャージャーとターボチャージャーのパワー特性の違い

ターボチャージャーとスーパーチャージャーのパワー特性の違いはどうでしょう? どちらもコンプレッサー装置で空気を加圧し、体積あたりの密度を高めることでパワーアップを実現。しかしターボチャージャーとスーパーチャージャーとでは、パワーの出方に明確な違いが生じます。

上はスーパーチャージャーとターボチャージャーのレスポンスの違いが顕著に分かる、四輪車の実験グラフ。横軸は時間、縦軸はマニホールド内の圧力です。

スーパーチャージャーは圧力の出方が非常にスムーズ。約90kPaまでは両者とも同等に立ち上がっていいますが、スーパーチャージャーは90kPaを超えても順調に圧力を高め、0.4秒でほぼ最大圧力に到達。

一方、ターボチャージャーは約90kPaで圧力の上昇が緩慢になり、最大圧力に達するまで1.4秒を要しています。このターボエンジンは、ターボの中でもかなり優秀な部類。

アクセルレスポンスに優れたスーパーチャージャー

上記のパワーの出方の違いは、走りにも顕著になって現れます。

スーパーチャージャーの主な特徴は、

①ターボチャージャーは排気ガスの圧力(吹き出す力)を利用するため、低回転域ではターボが効かずにパワーは上がらない。一方、エンジンの動力を利用するスーパーチャージャーは、エンジンが始動した瞬間から過給を開始するため、パワーの出方に時間的なズレ(ターボラグ)がなくてアクセルレスポンスも良好。またターボチャージャーに比べて出力特性も滑らか。

②ターボチャージャーよりも配管の取り回しがシンプルなため軽量。

③排気ガスを利用するターボチャージャーよりも吸気温度が低く、エンジンが熱を持ちにくい(排気ガスを冷やすインタークーラー付きターボを除く)。このためノッキングが起きにくく、圧縮比も上げやすい。

エンジン特性を決定付ける圧縮比

スーパーチャージャーの種類によっても異なるが、エンジン始動時から独特の金属音(コンプレッサーの回転音)が堪能できる。

スーパーチャージャーの短所とは?

一見、メリットだらけのスーパーチャージャーですが、デメリットもあります。それは、

①エンジンの回転力によって過給器を回転させるため、エンジンに負荷が掛かり、パワーの一部を消費。これによって燃料をロスし、結果として燃費が悪くなることがある。

②回転を上げれば上げるほどエンジンに負荷が掛かりパワーをロスしやすいスーパーチャージャーは、パワーロスの少ないターボチャージャーに比べてMAXパワーを稼ぎにくい。

日本車からスーパーチャージャー付きエンジンが消えた理由。それは

・ユーザーが性能よりも燃費や環境を重視するようになったこと

・低コストで高性能な自然吸気エンジンが製造できるようになったこと

・コストダウン

などが考えられます。

 

▲1920年代よりスーパーチャージャーを研究してきたドイツの名門・メルセデスベンツ。写真は同社のC200コンプレッサー。直列4気筒DOHC1800ccエンジンにスーパーチャージャーを搭載し、184psを出力。

▲HKS製スーパーチャージャーボルトオンキットを組み込んだチューニングカー。専用ベルトによってエンジン側とコンプレッサー側を接続。部品点数が多くなるなどの理由により、一般的に四輪用ボルトオンキットはターボよりもスーパーチャージャーのほうがやや高額。

スーパーチャージャーの歴史

スーパーチャージャーの歴史は、ターボチャージャーよりも古いのが特徴。その歴史を簡単に振り返ってみましょう。

1921年(大正10年)

世界で初めてスーパーチャージャー付きエンジンを搭載した量販車、メルセデス6/25/40psシュポルトがベルリンショーで公開。

1923年(大正12年)

ヨーロッパGPにおいて直列8気筒2000ccエンジンにスーパーチャージャーを組み込んだフィアット805が過給器エンジン初の勝利を収める。

1939〜1945年(昭和14〜20年)

太平洋戦争勃発。軍用航空機の分野でスーパーチャージャーの技術が飛躍的に発展。

1985年(昭和60年)

トヨタ・クラウンが市販車として日本初のスーパーチャージャー付きエンジン(DOHC2000cc)を搭載。その後、スポーツタイプのMR2、「ハイソカー(ハイソサエティカーの略)」と呼ばれたツインターボ搭載のマークⅡやチェイサーなどが人気となる。

出典:Wikipedia

国内の「ダウンサイジング」の先駆けともいえるクラウン スーパーチャージャー。

出典:Wikipedia

1984年に登場した国内初の市販ミッドシップモデル、トヨタMR2。直列4気筒1600ccエンジン搭載。1986年にはスーパーチャージャー搭載モデルがリリース。

世界初の量販過給器付スクーター

伝説のスーパーチャージャー付き原付2種スクーターがこのマシン。

2005年に登場したフランス製のプジョー・ジェットフォースコンプレッサー(現在は製造終了)は、水冷4スト125ccエンジンに電子燃料噴射装置(フューエルインジェクション)、そしてスーパーチャージャーシステムを搭載。

パワーはビッグスクーターに迫る20.4psを出力。当時の国内発売価格は70万円弱というやや高め。

カバーで覆われたスーパーチャージャー部分。コンプレッサー部の重さは約10kg。

2ストエンジンのスーパーチャージャー

スーパーチャージャーは4ストエンジンに採用するのが定番ですが、2ストエンジンに導入した例もあります(市販車ではなく一般ユーザーによるもの)。上のイラストは、2スト単気筒エンジン搭載のミニバイクにスーパーチャージャーを搭載した例。クランクに直結した空冷ファンの冷風を、エアのラインを経由してエアクリーナーに送り込む手法です。

ターボチャージャーとスーパーチャージャーをWで装備

四輪にはターボチャージャーとスーパーチャージャーの両方(ツインチャージャー、スーパーターボ、ダブルチャージと呼ばれる)を搭載したモデルもあります。

出典:Wikipedia

▲1989年に発売された日産マーチ スーパーターボ。自然吸気モデルの987ccから930ccに排気量をダウンさせ、ターボチャージャーとスーパーチャージャーを搭載(ダブルチャージと呼ばれた)。ボンネットには過給器に走行風を取り込むためのエアダクトを設置。最高出力は110ps。

ツインチャージャーのしくみ

下のイラストは、低燃費、高出力、コンパクトボディー、手頃な維持費など「新しいコンセプト」を打ち出したフォルクスワーゲン ゴルフGT TSIが採用しているツインチャージャーシステム。同車の排気量は1400ccでパワーは170psを発揮。

低回転域はスーパーチャージャー、高回転域はターボチャージャー、中回転域は両方で過給するという画期的なシステム。回転数や負荷などによってスーチャーの電磁クラッチがオン/オフされ、過給圧が制御されるしくみです。

ツインチャージャー搭載のフォルクスワーゲン ゴルフのセールスポイントは、「1400ccのエンジンで1600ccクラスの燃費、2400ccクラスのパワーを実現」。小排気量のエンジンに過給器を装備して低燃費を保ちつつパワーを出すこの方法は、『エンジンのダウンサイジング』と呼ばれます。

CO2の排出も軽減できるこの手法は、環境意識の高いヨーロッパで始まりました。ガソリン車&ディーゼル車とも定番となっています。

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