細かなキャブレターのセッティングは不要。ポン付けで怒涛のパワーを発揮するキャブレターがある。ハイエンドユーザーからそんな情報を入手した。ポン付けで怒涛のパワー?キャブレターのセッティングって、そんなに簡単じゃないぞ。早速その真相を探ってみた。
筋金入りのレース系4ミニカスタム職人
「泉(IZUMI)モータース」は山梨県甲府市にある老舗のアフターパーツメーカー。ハイエンドユーザーならご存知だろうが、同社は山梨を拠点に1980年初頭から盛り上がりを見せた“第二次ミニバイクレースブーム(第一次は1975年頃)”の火付け役。パーツメーカーのみに留まらない、知る人ぞ知る職人的気質、筋金入りのレース系チューニングショップでもあるのだ。
同社は現在、積極的なレース活動は行っていないものの、全国の4ミニレーサーや4ミニカスタマーたちにカスタムパーツやチューニングアドバイスを提供。長年に渡る貴重なノウハウや研究の末に導き出したカスタム理論、また独自の手法を駆使したパワーアップ術に、「生粋のチューナー」「職人の中の職人」と崇めるユーザーは数多い。
泉モータース製F26キャブレター
今回注目したのは、同社がリリースするキャブレター「F26(3万円)」。このモデルは、ミクニ製フラット24をベースに、ボアを24mmから26mmに拡大。またジェットニードルやニードルジェット、スロットルバルブなどを同社製の4スト用に変更しているのが大きなポイントとなっている。
独自のノウハウをフル投入した同社のキャブレターには、「ポン付けで最高回転数がプラス3000rpm上昇」「最高速度が飛躍的にアップ」「カートコースでタイムが4秒短縮」「2万rpmまで回る」等々、数々の武勇伝が存在する。
このF26も、「一般にキャブ変更のみではここまで変わらない」「まるで排気量を上げたようだ」「レーシングシリンダーヘッドに変更したような感覚」というユーザーの声も。果たしてその実力は?
セッティングなし。ポン付けでOK!?
テスト車両はヨシムラミクニTM-MJN24キャブレター、デイトナ製ハイポートシリンダーヘッド、デイトナ製φ52シリンダー&ピストン、41.4mmノーマルクランク、キタコ製CDI、純正アウターローター、スポーツマフラー等を装着した88cc仕様。
泉モータースにエンジンの仕様を聞かれ、詳細を告げると、「なるほど。では早速商品を送ります」とのこと。「セッティングのためのメインジェットやパイロットジェットは? こちらでフラット用を別途用意したほうがいいですか?」との質問に、「いらないと思います」との返答。「いらないって…。ポン付けで本当に大丈夫なんですか?」「はい、ほぼ問題ないかと思います」。
キャブレター変更といえば、メインジェットやニードルのクリップの位置を何度もチェンジする。これが常識であり当たり前。本当にポン付けで大丈夫なの? そんな疑問を抱えつつ、届いたF26の取り付けを開始した。
ステップ1 キャブレターの取り外し
現在装着しているキャブレターは、ストリートからレースまで幅広い人気を誇る「ヨシムラミクニTM-MJN24」。エンジンの始動性に優れ、全域にて扱いやすく、スポーティー。しかも低燃費。ストリート走行を考慮し、キャブレターにはデイトナ製エアフィルターをチョイス。カバーはワンオフのもの。
キャブレターに接続されたフューエルホースを取り外し。次にステンレスバンドを緩め、ラバーマニホールドに挿入されたキャブレター本体を引き抜く。
六角レンチで2本のトップカバー固定用ボルトを緩めると、スロットルワイヤーに接続されたスロットルバルブ周りがスッポリと引き抜ける。これでキャブレター本体がフリーになる。
スロットルバルブ側のコネクタ部分に引っ掛けられたスロットルワイヤーを取り外す。するとスロットルバルブ本体、スプリング、パッキン、樹脂リングが分離。次にスロットルワイヤーからトップカバーを分離する。
ステップ・2 キャブレターの取り付け
取り外しとは逆の要領でF26キャブレターを取り付ける。まずはトップカバー周りを分解。次にスロットルワイヤーへトップカバーを固定。
スロットル側のスロットルホルダーを分解し、スロットルワイヤーをフリーにする。これによってスロットルワイヤーがキャブレター側に伸び、スロットルバルブ周りが組み付けやすくなる。
スロットルワイヤーにスプリング、ガスケット、樹脂リングをセット。次にスロットルバルブ側のコネクタ部分にスロットルワイヤーの先端を引っ掛ける。
スロットル側のスロットルホルダーを元通り組み付けた後、手でスロットルを何度か開閉。写真の通りスロットルバルブが上下に動作するか確認する。
キャブレター本体にスロットルバルブ周りを挿入。次に2本のプラスネジでトップカバー取り付けボルトを固定する。
スロットルを開閉し、キャブレターにセットされたスロットルバルブが上下に、しかもスムーズに動作するかを確認する。
キャブレター本体にフューエルホースを接続。次にキャブレター本体をラバーマニホールドにしっかりと挿入し、ステンレスバンドで固定する。
トルクアップで街乗りも快適
F26キャブレターは「パワーアップはもちろん、誰でも“使いやすい”」がコンセプト。この“使いやすい”という言葉の中には『扱いやすい』に加え、『セッティングに困らない』という意味も含まれている。
今回装着したF26は、メインジェットもパイロットジェットも、またジェットニードルのクリップ位置も変更していない。細めのマイナスドライバーを使ったエアスクリュー調整、加えてアイドリング調整のみ。つまり、ほぼメーカーから送られてきたままのボルトオン状態だ。キャブレター=セッティングが難しいというイメージを払拭した、ビギナーにも親しみやすい商品。そんな印象を受ける。
テストしたのは6月。天気は晴れ。暖気運転後、ニュートラルのまま何度かスロットルを煽り、プラグの焼け具合をチェック。もう少しパイロットジェットの番手(テスト時は♯17.5)を下げてもいいのかな?という感じ。ちなみに今回はキャブレターのダイレクト感を味わいたく、エアフィルターは未装着。直キャブでのテストとなった。もしもあなたがF26をストリートで繁用する場合、天候や気候、標高差などに左右されにくいエアフィルターを装着すべし。レースで使用するならば、さらなるポテンシャルアップを実現してくれる同社製エアファンネルの装着をおすすめしたい。
3000rpm付近で、ゆっくりとクラッチミート。ストップ&ゴーを繰り返す低回転域(時速40km/h以下)での街乗り走行においては、トルク感が増したおかげで実にスムーズ。大口径キャブにありがちなギクシャク感はまったくない。
ついに本性を現した!超過激な加速性能
一瞬、扱いやすい=大人しくてマイルドな特性、というイメージを抱きかけた。しかしそれは、街乗りで繁用していた4000rpmまでのお話だった。
テストステージは信号の多い街中から、工業団地内に伸びる、長くて広い、日曜日の無人の直線道路へ。
4000rpmを超えた中高回転域でのパワーの伸びは、まさに圧巻。過剰にスロットルを開けなくても、エンジンは未体験ゾーンを目指してガンガン回っていく。1万rpm、1万3000rpm…。頭打ちになることなく、回転数は上昇。怒涛の加速感に圧倒されつつ、さらにジュワジュワと慎重に、スロットルをオープン。回転数は1万4000rpm、1万5000rpmへとさらに上昇。一体どこまで伸び続けるのか。
スポーティーというよりもバイオレンス(暴力)の領域
スロットルをフルオープンする前に、一旦スローダウン。テスト車は“回してパワーを稼ぐ”ボアφ52×ストローク41.4mm=88cc。レーシングエンジンの定番とも呼べるショートストローク仕様だ。
今度はやや回転を上げながら、丁寧にクラッチをミート。ウイリーに注意しつつ、目一杯の前傾姿勢で1速から2速にシフトアップする。加速しながら、やや乱暴気味にスロットルをオープン。その瞬間、まるで脳みそを丸ごと後ろに持っていかれるような、暴力的ともいえるドッカン級の強烈な加速力を発生した。正直、ヤバイ…。
レーシングキャブレター=シロウトにはセッティングが困難なイメージ。しかしこのキャブレターは、面倒で難しいセッティングなしで、誰でもレーシングキャブレターのテイストが味わえる。いや、このF26は、もはやレーシングキャブレターそのものである。
F26キャブレター、その速さの秘密に迫る!
「F26」はミクニ製フラット24をベースに、ボアを24mmから26mmに拡大するなど各所にチューニングを実施したモデル。
同じくミクニ製フラット24をベースにした「ヨシムラミクニTM-MJN24」とはカラーやエンブレムの有無、チョークレバー、取り付けビス等を除き、外見上はほぼ同じとなっている。まずは両者をじっくりと比較してみよう。
フロートチャンバーボディーを取り外したところ。内部は外観上、メインジェット以外に違いはない。
スロットルバルブ部分。写真左がF26、写真右がTM-MJN24。スロットルバルブの形状は同じだが、ジェットニードルが異なる。F26は先端の尖ったテーパー形状のスタンダードタイプ。TM-MJN24は先端まで一定の細さの中空(パイプの形状)ノズルに数個の穴を設けた特殊なタイプ。
TM-MJN24はジェットニードルに小さな穴が開けられたMJN(マルチプルジェットノズル)を採用。
オプションパーツもスタンバイ
F26はセッティング用のオプションパーツもスタンバイ。写真はどちらもF26用スロットルバルブ。右はスタンダード、左はスロットル開度1/8~1/2でのポテンシャルをさらに追求したオプション(特注)。矢印の部分が若干削られている。
写真左はオプションのスロットルバルブ。写真右のスタンダードとは異なり、矢印の部分が若干削られている。
写真左はF26のメインジェット。今回装着したモデルには六角の♯135が装着されている。一方、写真右のTM-MJN24は丸型のメインジェットを採用。番手は♯82.5を選択している。
メインジェット横の丸穴の中にセットされたパイロットジェット。写真左はF26で番手は♯17.5。写真右はTM-MJN24で番手は♯12.5をチョイス。
開発者インタビュー
–ズバリ、F26のポイントは?
泉モータース(以下、泉):カスタムビギナーでも安心して、気軽にハイパワーを堪能できること。当社のキャブレターは『スロットル開度1/2以下をどれだけいい状態に持ってこられるのか?』これを念頭にチューニングしています。1/2以下のセッティングがきっちりと合えば、基本的に1/2以上のセッティングも出てくるもの。1/2以下をベストな状態に保てば、エンジン性能は100%引き出せるはずです。
–キャブ単体で価格は3万円。やや高額ですよね…
泉:F26の場合、独自のジェットニードルとニードルジェットを採用。ベストなセッティングを出すまでに、結果として相応の開発期間や材料費が掛かってしまいました。
–それが価格に反映されているわけですね。
他メーカーさんに比べ、確かに高額。ただしセッティングにかかる時間の短縮やハイパワーを体感していただければ、この価格は決して高いものではない。むしろ逆にお買い得じゃないかな? そう考えています。
–御社のキャブレターは「高回転まで回る」というのがもっぱらの評判。注意すべき点などは?
例えばノーマルのイグニッションコイルの場合、高回転まで回すと点火が弱まってしまう。つまり火が追いついていかなくなるんです。そうなると、当然エンジン性能が100%発揮できません。当社のイグニッションコイルは、1万8000rpmまで回しても火花は強いまま。「火花の差はこんなにあるのか!」と気付くはずです。
— ビギナーは回し過ぎによるエンジンブローに十分注意しましょう。ところでF26購入時の注意点は?
エンジンやマフラーなどマシンの仕様によっては相性の良くない場合もあります。まずは取り付け予定のマシンについてお話しましょう。お気軽にお問い合わせ下さい。
■取材協力:泉モータース 山梨県甲府市相生1-2-24 TEL:055-222-3605 ※問い合わせ受付時間:9:00~19:00 |
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