「レギュラーガソリンよりもハイオクガソリンは高価だから優れている」「ノーマルマシンにハイオクを入れると速くなる」これらは基本的に間違い。レギュラーとハイオクの違いを知って、ガソリンを正しく使い分けよう。
ノッキングとオクタン価
ノッキングとは、低速ギアを使って急な上り坂をエンジン全開で走るなど、エンジンに高い負荷がかかった時、エンジン内から「ガリガリ」「カラカラ」と異音が鳴る現象のこと。
またオクタン価(※注1)とは、ノッキングのしにくさを示す尺度のこと。オクタン価高いガソリンほど着火点が高く(平たくいえば燃えにくい)、ノッキングが起こりにくい。
※注1:オクタン価はリサーチ法やJIS規格によって、オクタン価の正確な数値は異なる。
レギュラーガソリンの特徴
オクタン価が85から90の無鉛ガソリン(※注2)。ハイオクよりもオクタン価の低いレギュラーは、ハイオクよりも着火点が低い(平たくいえば燃えやすい)のが特徴。
※注2:国内ではかつてオクタン価の高い有鉛ガソリンが市販。しかし公害対策によって昭和50年、ガソリンスタンドで市販されるガソリンはすべて無鉛化になった。ちなみにミニバイクレースでは、かつて「アブガス(アビエーションガソリン)」というオクタン価の高い、航空機用の有鉛ガソリンも頻繁に用いられた。なお価格はハイオクの2~3倍くらい。
ハイオクガソリンの特徴
ハイオクタンガソリン、略してハイオク。オクタン価が90から98の無鉛ガソリン。レギュラーよりもオクタン価の高いハイオクは、レギュラーに比べて着火点が高い(平たくいえば燃えにくい)のが大きな特徴。国内のハイオクには、一般にエンジン内をクリーンにする洗浄剤が混入。一部ではプレミアムガソリンとも呼ばれている。
ノッキングの原因
高回転域にて「ガリガリ」「カラカラ」と異音を発するノッキング。ノッキングとは、燃焼室の温度が過度に上昇。『吸気』『圧縮』『爆発』『排気』の4工程中、高まった熱によって、『爆発』以外の箇所で着火・爆発。スパークプラグによって適正なタイミングで点火される前に、着火してはいけないタイミングで爆発してしまう異常燃焼のことだ。 イラスト左の「ノッキング」を参照。ピストンは上昇しようとしているものの、ノッキングによって爆発。ピストンを下降させるという無理な力が働いてしまう。この相反する2つの力が、エンジン破損の原因となる。ノッキングを起こしたままエンジンを回し続けると、エンジンは壊れてしまう。
ノッキングを起こしやすい高圧縮型エンジン
レース向けのエンジンは、一般的にパワーを出しやすい圧縮比を上げた高圧縮型に設計。このタイプのエンジンは、高圧縮で爆発を繰り返すため、燃焼室の温度が過度に上昇。その結果、ノッキングが起こりやすい。
圧縮比とは、シリンダー容積(B)及び燃焼室容積(A)における燃焼室容積(A)の割合のこと。(A+B)÷Aで算出する。圧縮比を上げる場合は、ピストンの交換によって燃焼室容積(A)を小さくするのが一般的。理論上、圧縮比を上げればパワーは上昇。ただしエンジンの強度にも限界があるため、ただ闇雲に上げても駄目。エンジン破損の原因となる。
高性能な高圧縮型エンジンが、着火点の高いハイオクを欲している
高性能な高圧縮型エンジンは、燃焼室が高温になりやすい。熱が上がると、ガソリンは自然着火してしまう。その結果、ノッキングが起こる。ではどうすればいいのか?
勝手に爆発することを止めさせ、プラグ着火による適切な爆発が行われればいい。そこで登場するのが着火点の高い(平たくいえば燃えにくい)ガソリン、つまりハイオクガソリンだ。高圧縮型エンジンはハイオクを使うことにより、自然着火=ノッキングを未然に阻止しているわけだ。
高性能(高圧縮)エンジンにハイオクが必要な理由
モンキーもエイプも、カスタムされた高圧縮なチューニングエンジンにはノッキング防止のため、ハイオクガソリンの使用は必須。レギュラー&ハイオクガソリンとエンジンの関係を探ってみよう。
チューニングエンジンにはハイオクを使用、これは常識
ハイパワーを搾り出す、高性能シリンダーヘッドを採用したエンジンキットの圧縮比は、一般的にノーマルの市販車よりも高めに設定(12.0前後)。ノッキング防止のため、多くのエンジンキットは、レギュラーガソリンよりも着火点の高いハイオクガソリンの使用を指定、または推奨している。
仮に、高圧縮型のエンジンキットにレギュラーガソリンを使用して高回転域を多用したとしよう。この場合、一体どうなるのか?
ノッキングによって、エンジンはほぼ間違いなく壊れる。「僕は低中回転域のみでのんびり走るから、レギュラーガソリンで大丈夫」というユーザーもいるだろうが、ハイオクガソリン指定または推奨エンジンは、必ずハイオクを使おう。
高圧縮エンジン用に作られたレース用ガソリン
レース用ガソリンは、高圧縮なレース用エンジンのために作られたもの。ずば抜けた燃焼性、高い耐ノッキング性能を誇るのがポイントだ。 ちなみに高性能オイルでも有名な「elf(※注3)」からは、2スト用、4スト用、四輪用、有鉛ガソリン等々、数種類のレース専用市販ガソリンがリリースされている。ただし価格はハイオクガソリンの約10倍と高額。
※注3:elfは自動車レース、バイクレース、ドラッグレース等々、レースレギュレーションに合わせたオーダーメイドのレース専用ガソリンを提供している。
ノーマル車にハイオクを入れても大丈夫?
ノーマルのモンキーやエイプはレギュラーガソリン仕様車だが、ガソリンスタンドのハイオクガソリンを入れても大丈夫。ちなみに各石油メーカーからは、「洗浄剤入りだから、エンジンをクリーンに保つ」「燃費とパワーが向上」等々のメリットも挙げられている。
ハイオク指定・推奨エンジンにレギュラーを入れても大丈夫?
高回転域を多用した場合、ノッキングによってエンジンが壊れてしまう。ちなみに昨今の四輪車の場合、ハイオク仕様車にはノッキングを感知する「ノックセンサー」が設置されている。これはノッキングが起こった時、エンジンが自動的に出力を抑えてくれるという安心のシステムだ。
ノックセンサー付きのハイオク仕様車に、もしも間違えてレギュラーガソリンを入れてしまった場合。ノックセンサーが働き、ノッキングからエンジンを守ってくれる。ただし、ノックセンサーや関係部品が故障していれば、エンジンは破損してしまう。
4ミニチューニングエンジンには、残念ながらノックセンサーは付いていない。本来の性能を発揮しないというデメリットもあるので、高圧縮型のチューニングエンジンには必ずハイオクガソリンを入れよう。
ガソリン車に軽油を入れるとどうなる?
危険なので絶対に止めるべし。軽油はディーゼルエンジン用の燃料。点火プラグを使わないディーゼルエンジンは、基本設計そのものがガソリンエンジンと異なる。ガソリン車にガソリンよりも着火点が低い(燃えやすい)軽油を入れて走行した場合、エンジンは破損。最悪の場合は、爆発もしくは炎上する可能性もある。
アルコール度数の高いお酒でバイクは動くのか?
ウォッカやラムなど、火を近付けると燃え出すようなアルコール度数の極めて高いお酒なら、とりあえず走行できる場合もある。しかし燃料ホースなどを痛める、エンジンが持つ本来の性能を発揮しない、故障や炎上の恐れがある、ガソリンの方が遥かに安価等々、百害あって一利なし。
販売店によってガソリンの性能は異なる?
ガソリンはガソリンスタンドの地下に埋められている備蓄タンク内に貯蔵されているが、ガソリンの鮮度の違いによって、わずかながら性能に差が出る場合がある。ガソリンはどんなに密封していても、月日が経てば揮発し、やがて腐ってしまう。常に新鮮なガソリンを提供してくれる、ガソリンの回転率の良い繁盛店を選んでみるのがおすすめだ。
“腐った”ガソリンでエンジンをかけると?
月日が経って揮発してしまったガソリンを”腐ったガソリン”と呼ぶ。腐ったガソリンでエンジンを始動すると、マフラーからは咳き込むほどの猛烈な白煙を放つ。また、走行時にはマシンのポテンシャルを100%発揮してくれないので要注意。ガソリンはなるべく早めに使うべし。