モンキーやエイプのクランクシャフト交換時には、必ず軸方向の“すき間”を確認。もしもガタがある場合は、「アキシャルシム」で調整すること。ガタついたままだと、クランクケースの破損を招く恐れもあるので注意しよう。
クランクシャフト軸方向の“すき間”を調整するアキシャルシムとは?
エンジン左側のジェネレーターカバーを外し、フライホイールを手に持って、軸方向に動かしてみる。
この時、クリアランス(遊び)の域を超えた過剰なガタがある場合は、すぐさまクランクケースを割って調整する必要がある。
調整に使用するアキシャルシムとは○状になった金属パーツ。軸方向のすき間を軽減させる役割を担っており、クランクケースのベアリング受け部にスッポリと収まるよう設計されている。
写真はSP武川製の12Vモンキー用。外径51.5mm、内径46.5mm、外周の幅は5mmに設計。
スムーズなクランクシャフトの動きを実現
クランクシャフトの過剰なガタつきは、一般にガスケットの劣化に伴う振動によるボルトの緩み(左右のケースが開いてくる)が原因とされる。
また、一見まったく同じに見えるクランクケースやクランクシャフトも、実は肉眼では確認できない微妙なネジレやズレがあることも。パーツの組み合わせによっては規定値以上のすき間が生じてしまうこともあるのだ。
軸方向のガタつきを抑えることにより、
<1> クランクシャフトの動きのロスを、最小限に抑えることができる
<2> クランクシャフトの動きを一定に保つことにより、カムチェーンラインが固定化できる
<3> ガタつきによって生じていたエンジンの振動が解消できる
ガタついたままの状態でエンジンを回し続けると、クランクシャフトやクランクケースに過剰な負担が掛かり、最悪の場合はクランクケースの亀裂や破損を招く恐れもある。
アキシャルシムの表面には厚みが表示。写真上から0.1mm、0.15mm、0.5mm。
クランクシャフトには適度なクリアランスが必要
調整方法はクリアランスを測る、バラす、組む、再度クリアランスを測る、以上の繰り返し。
最大のポイントは、ガタつきを0にしないこと。これはエンジンが温まってくると、熱によってクランクシャフトが膨張するため。公道走行の場合、0.05mmから0.1mmのクリアランスを確保しておくのが一般的(季節、環境、各自の使用条件等により異なる)。
また、高回転で回るクランクシャフトが、ベアリングの供回りによって磨耗した薄型のアキシャルシムを巻き込んでしまうこともごく稀にある。ストロークアップしたチューニングマシンは、日頃の点検をしっかりと行いたい。
仮締めと本締めのクリアランスの差に注目
写真はどちらも右側のベアリング受け部を、外側から覗いたところ。左は左右のクランクケースを結合しているボルトを、すべて規定トルクで本締めしたところ。右は仮締めの状態。両者にはこんなにも違いがある。規定トルク以下でボルトを締め付けた場合もガタつきの原因となるので注意しよう。
計測・調整にはダイヤルゲージを使用
クランクシャフトの軸方向のクリアランス計測には、バルブタイミングの計測などにも用いるダイヤルゲージを使用。
計測方法は、
<1> アキシャルシムなしの状態でクランクシャフトを装着し、左右のケースを結合。規定トルクでボルトを締め付ける。
<2> ダイヤルゲージでクリアランスを計測。
<3> 計測後にケースをばらし、計測値よりも薄いアキシャルシムを入れる。
<4> 左右のケースを結合し、規定トルクで締め付ける。
<5> クリアランスを計測。
上記を0.05mmから0.1mmのクリアランスを目安に繰り返す。
今回の作業では、初期のクリアランスが0.28mm。そのため、左のケースに0.2mmのアキシャルシムを挿入。これだけでかなりのガタが解消された。念のため、最後にクリアランスを計測したところ、0.08mmとなった。
左のクランクケースに0.2mmのアキシャルシムを設置したところ。手で動かしてみたところ、クランクシャフトのガタつきも調整前に比べて確実に減少した。
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