FCRキャブレターのポイント
メカニカルなフォルムでモンキーやエイプなど4ミニにも人気のレーシングキャブレター・ケーヒンFCR28φキャブレター。「FCRキャブは凄い!」という話はよく聞くが、一体どこが凄いのだろう。その速さの秘密を徹底的に解剖してみよう。
同じケーヒン製キャブレターでも、PC18φやPC20φ、PE24φなどはビギナーにも優しく親しみやすいタイプ。対してFCRはCRの伝統を引き継ぐ、生粋の4スト用レーシングモデルだ。
FCRはPCやPEよりも、より細かいセッティングができ、ジェット類などのセッティング用パーツも各サイズが豊富に揃っている。4ミニカスタムでは28φが多用される。
FCRキャブが凄いと賞賛される理由は、走りを重視した装備が数々採用されている点。加速ポンプ、ピストンバルブの強制開閉、ベアリング付ピストンバルブ、フラット型ピストンバルブ、マウントアダプターの採用等々、キャブレターの先端を行く贅沢かつ魅力的な機能が満載なのだ。
ただし、キャブレターのダイレクト感が味わえるその代わりに、強制開閉独特のアクセルワークのシビアさ、セッティングをきっちりと出すには豊富な経験と知識が必要であること、冬場のエンジン始動に重宝するチョークがない等、速く走ることを最優先させた設計ゆえに、ビギナーは苦戦する可能性大。
しかしPCやPEなどでしっかりとキャブのセッティング方法や基礎を覚え、経験を積めば、これほど面白くて魅力的なキャブレターはないだろう。
写真下はFCRの前身モデル、CRキャブ。数々のレーサーに採用されてきた生粋の4スト用レーシングキャブだ。「円筒型バルブ」を採用したこのモデルをベースに、「フラット型バルブ」を採用し、数々の新機構を盛り込んだのがFCR。ちなみにFCRの“F”は、“フラット”を示す。写真は4ミニカスタムに多用される26φ。
「ダウンドラフト型」のFCRキャブレター
FCRキャブにはフロートの配置などが異なる2種類のタイプがある。写真はクリアランスに限りがあるモンキーなど横型エンジン搭載車両に最適なダウンドラフト型。混合気がポートに対してほぼ垂直に入るため、流速が上がって吸気効率がアップする、また燃焼室との距離が短いためにスロットルレスポンスが鋭くなる等のメリットもある。
「ホリゾンタル型」のFCRキャブレター
ホリゾンタルとは英語で「水平」という意味。エイプなどの縦型エンジン搭載車に最適なタイプ。モンキーに装着する場合は、マニホールドの取り回しに工夫する必要がある。
“強制開閉式”のスロットル
PCやPEはスロットルバルブの「開き」「戻し」を1本のワイヤーで行うが、FCRはピストンバルブを戻すための戻し用ワイヤーも併設した強制開閉式。これにより、低中回転域でのスロットル制御性能が飛躍的に向上する。
スロットル側からキャブ側のスロットルレバーへとつながる2本のワイヤー。上が開き用、下が戻し用。
まるで“水鉄砲”のような加速ポンプ
FCRキャブといえば加速ポンプ。
写真は加速ポンプが作動して、ガソリンが噴射されているところ。スロットルを開けると、マニホールド側から勢いよく「ピュ-!」とガソリンが飛び出てくる。
小刻みにスロットルを開閉すれば、ガソリンは断続的に噴射。スロットルを開けたままにすると、次第にガソリンの噴射は弱まり、やがて空気がなくなって噴射は止む。
感覚としては、限りなく水鉄砲に近い。出てきたガソリンは負圧によって細かい霧になり、シリンダーヘッド内に吸い込まれてゆく。
加速ポンプのリンクレバーはスロットルワイヤー接続部に連動。スロットルを開ければピストン部がポンプを押し下げてガソリンを噴射するしくみ。加速ポンプは低中回転域からの加速に威力を発揮する。
ベアリング付のフラット型ピストンバルブ
円柱型のピストンバルブよりも軽量なフラット型ピストンバルブを採用。しかも作動部となる両サイドには、合計4つのベアリングを装備。スロットル操作時のフリクションを大幅に低減してくれる。
トップカバーを取り外したところ。板状のフラット型ピストンバルブが閉じた状態。
スロットル全開の状態。ピストンバルブが上昇し、キャブレター内に大量の空気が送り込まれる。
マニホールドの口径も豊富
マニホールドは様々なサイズの口径にセッティングできるマウントアダプター式。混合気の吸入量を細かくセッティングできる、レーシング仕様ならではの設計となっている。
スロージェットの交換
六角のヘキサゴンで固定されているフロートチャンバーボディーを取り外す。
細くて長いマイナスドライバーを使い、右側の穴に固定されているスロージェットを緩める。
取り外したスロージェット。スロージェットはアイドリングから低回転域をつかさどるジェット。レースなど高回転域を多用するマシンの場合、交換する機会は少ないかも。
メインジェットの交換
ヘキサゴンで固定されたフロートチャンバーボディーを取り外したところ。中央の金色の突起がメインジェット。
メインノズルを取り外したところ。メインジェットはメインノズルに接続されている。
メインジェットとメインノズルを分離したところ。上がメインジェット。
メインジェットの交換は、フロートチャンバーボディー底にあるホールディングボルトを取り外せば、基本的にエンジン側に装着した状態でも交換がOK。
ジェットニードルの交換
六角レンチでヘキサゴンを緩め、トップカバーを取り外す。
スロットルレバーを親指で固定し、ピストンバルブを持ち上げた状態で静止。ピストンバルブ上にある六角ボルトを緩める。
六角ボルトの奥には、ジェットニードルが仕込まれている。作業は非常に簡単。メンテナンス性も十分考慮した設計がなされている。
径やテーパーが微妙にことなるジェットニードル。一見どれも同じようだが、1本1本微妙に異なっている。
スロージェット、メインジェット、ジェットニードルの交換に使用した工具たち。
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