走行距離が伸びたり、高回転域でクラッチの接続・断続を繰り返すと、クラッチ板が摩耗してクラッチが滑ってきます(クラッチがつながりにくくなる)。ここでは、クラッチ板=フリクションディスクの交換方法をレポートします。
フリクションディスクの交換方法
モンキー改に採用の2次側クラッチ(デイトナ製)のフリクションディスクを交換してみます。
クラッチ側にあるリフターアームに接続されたクラッチワイヤーを取り外します。リフターアームを「クラッチを切る」側に作動させながら、クラッチワイヤーの凸部分を引き離すのがポイントです。
六角レンチを使い、キャップスクリューで固定されたキックアームを取り外します。キックアームを再度取り付ける場合は、無理やりねじ込まないのが鉄則。オス側とメス側のギザギザが自然に噛み合うよう、「スッポリ」と挿入するのがポイントです。
六角レンチを使い、キャップスクリューで固定されたクラッチカバーを取り外します。キャップスクリューは箇所によって長さが異なるので、取り付けの際は「キャップスクリューの頭の突き出し量」に注意。
クラッチカバーを固定しているキャップスクリューを全て取り外したら、リフターアームを「クラッチを切る側」にゆっくりと作動。するとクラッチカバーが「にゅ~」っと引き離されていきます。
湿式クラッチの場合、車体を直立させた瞬間、クランクケース内からエンジンオイルがドボドボと流出してきます。分解時はセンタースタンドの使用は厳禁。一定の傾斜のついたサイドスタンドを使用するなど、エンジンオイルが漏れてこないよう作業しましょう。
「リフターロッド」の動きを確認
クラッチカバー裏側の中央部分には、凸型のクラッチリフターロッドというパーツが設置されています。指先で持っているのが「リフターロッド」。このパーツは中央の凹部分に挿入されています。
▲クラッチレバーを握る~クラッチアームが動作する~クラッチカバー裏に設置された「リフターロッド」がプッシュ(内側に押し出される)される~というしくみです。
▲写真上はクラッチを放した状態。つまりクラッチがつながった状態です。
▲写真上はクラッチを握った状態=クラッチを切った時の状態。リフターアームが前方に作動し、クラッチリフターロッドがクラッチ側に「にゅ~」っと突き出てきます。
クラッチカバーの裏側に固定されたクラッチリフターロッドの反対側、つまりクラッチ側にもリフターロッドが仕込まれています。このパーツが上下に動く=クラッチが「切れる」「つながる」という構造になっています。
湿式クラッチと乾式クラッチの違い
多くの社外の2次側湿式クラッチカバーには、エンジンオイルの汚れや量が一目で確認できる便利なチェック窓を装備。湿式クラッチ=エンジンオイルがクラッチを循環する文字通り「湿った」タイプであることが分かります。
クラッチ周りにエンジンオイルが循環する湿式は公道でも扱いやすく、神経質なクラッチ操作を必要としない万人向けのタイプ。このため市販車のほとんどのクラッチには湿式が採用されています。
エンジンオイルが循環する湿式クラッチの特徴
①乾式に比べて摩擦係数(μ・ミュー)が低く、クラッチのつながりが滑らか。半クラッチもしやすく、低速時などは車体が安定しやすい。
②オイルによる潤滑、またクラッチカバーに覆われているため、クラッチ接続時のノイズが少ない。
③オイルの潤滑によって自動的にフリクションディスクの摩耗部のカスを清掃。クラッチ本体のメンテナンス頻度も少なくて済む。
乾式クラッチとはエンジンオイルによる潤滑のないタイプ。エンジンオイルに触れることのない、クラッチがムキ出しになった文字通り「乾いた」タイプです。バイクの場合、レーシングモデルなどに採用。
エンジンオイルが循環しない乾式クラッチの特徴
①エンジンオイルによる潤滑がないため、湿式よりも摩擦係数(μ・ミュー)が高くて滑りにくい。エンジンパワーを確実に伝達し、パワーのロスを防いでくれる。
②湿式よりもクラッチの切れが良く、クラッチがつながる時のダイレクト感が強い。
③湿式に比べて整備性が高い。
④直接空気にさらされているため走行時の冷却性が高い。
⑤シャラシャラというレーシーな接続音を発する。
クラッチの内部を分解
4本のボルトを取り外します。ボルトの下にはクラッチスプリングが縮まった状態でセットされているため、対角線状に、しかも各ボルトを均等に緩めるのがポイントです。
フリクションディスク交換後に再度組み付ける場合は、トルクレンチを使って規定値まできっちりと締め付けましょう。規定値はクラッチキットの説明書、もしくはメーカーのサービスマニュアルに記載されています。
4本のボルトを取り外すと、クラッチスプリングを伸縮させるためのクラッチリフタープレートが外れます。クラッチリフタープレートの下にはクラッチスプリングが設置済みです。
クラッチリフタープレートの奥にあるクラッチスプリングはこのようにフリーの状態でセットされています。μ(ミュー)の異なる社外のクラッチスプリングに交換すれば、クラッチを「切る・つなぐ」のフィーリングが手軽に変更可能です。
クラッチ本体はミッションの軸に接続され、C型形状のサークリップで固定されています。
クラッチの中央部に固定されたサークリップを取り外すには、特殊工具の「スナップリングプライヤー」という工具を使用します。ラジオペンチによく似たこの工具は、先端部が凸状になっているのがポイント。工具店で入手可能です。
サークリップの両端にある2つの穴にスナップリングプライヤー先端の凸部を挿入し、左右にゆっくりと広げます。するとトランスミッション軸の凹部にハメ込まれたサークリップがスッポリと抜けます。
「スナップリングプライヤー」でサークリップを取り外すと、クラッチセンターが外れます。するとフリクションディスク(クラッチ板)が姿を現します。
▲取り外したクラッチセンター。
クラッチは摩擦部の付いたフリクションディスク(茶色)と、摩擦部のないクラッチプレート(銀色)が密着=クラッチがつながる。
また、フリクションディスクとクラッチプレートが分離=クラッチが切れるというしくみです。
写真はフリクションディスクを4枚備えた4ディスク式を採用。社外の2次側クラッチには、オーバー100ccにも対応の5ディスク式や6ディスク式もラインナップされています。
写真はフリクションディスクとクラッチプレート、またクラッチプレッシャープレートをエンジン側から取り外し、バラバラにしたところ。
写真右は摩耗部を備えたフリクションディスク、写真左はフリクションディスクとフリクションディスクの間にセットする摩耗部のないクラッチプレート。
走行距離の伸びた車両やレース等で酷使されたクラッチは、フリクションディスクの摩耗部が劣化してクラッチが「滑る」のが特徴。クラッチが滑り出したら、フリクションディスクは要交換となります。
クラッチセンターとクラッチプレッシャープレートの間に、
フリクションディスク、クラッチプレート、フリクションディスク…
の順番で組み付けていきます。順番を間違えないよう注意しましょう。
何枚ものフリクションディスクやクラッチプレートが重なり合ったクラッチの分解は一見難しそうな作業ですが、頭の中で構造が理解できていれば決して難しくはありません。