4スト49ccで最高出力7.0psを発揮
1958年(昭和33年)、スーパーカブC100が誕生。1959年(昭和34年)、ホンダはイギリス・マン島TTレースに初出場。1960年(昭和35年)、小排気量スポーツのスポーツカブC110が登場。1962年(昭和37年)、鈴鹿サーキットが完成。同年、ロードレースの世界GPでは50ccクラスが新設。モータースポーツへの関心が益々高まる中、一台の市販50ccクラスレーサー「CR110カブレーシング」が衝撃的なデビューを飾った。
同車は世界のロードレースに出場できる性能を秘めた、当時のホンダの技術力を凝縮させた本格派モデル。
“カブ”の名称が与えられた理由は、まずホンダの50ccの代名詞=カブであること、またクランクケースはスポーツカブC110の横型エンジンがベースであるため。
エンジンはワークスレーサー、RC110ベースの空冷4ストDOHC4バルブ(ギヤ駆動)49cc(ボア40mm×ストローク39mm)。内径40mm強の小さな燃焼室に、肩を寄せ合うようにして収まった4本の吸排気バルブ、そしてシリンダーヘッドには2本のカムシャフト等を装備していることから「精密機械」とも呼ばれた。
最高出力は7.0ps/1万2700rpm、最大トルクは0.40kgm/1万1000rpmを発揮。最高速はオーバー100km/hを誇った。
【エンジンの詳細】 → 超高性能なDOHC4バルブエンジン
初期型はスクランブラーフォルム
CR110カブレーシングといえば本格派レーサーフォルムの中期型と後期型が有名だが、最初に発売された初期型は、保安部品を装着したスクランブラーフォルム。
初期型の販売台数は、49台(メーカー発表)。ホンダの有力ディーラーのみで販売された。ミッションは手動式5速。8速ミッションが収まった中期型と後期型よりも、クランクケース幅が30mm程度狭いのが大きな特徴だ。乾燥重量は75kg。当時の発売価格は17万円だった。
初期型(公道用)のハンドル回り。バータイプのハンドルは、公道でも操作しやすいアップ型を採用。
当時は、後に中期型と後期型にも採用される縦長タンク、セパレートハンドル、バックステップなど、CR110カブレーシング用の純正レース用パーツがオプション販売された。
この時代のホンダ純正レース用パーツは、「Y部品」もしくは「Yパーツ」と呼ばれる。
最高出力8.5ps&8速ミッションの中期型
公道用が登場してから間もなく、Y部品を装着したレース専用がリリースされた。エンジンは、最高出力8.5ps/1万3500rpm、最大トルク0.46kgm/1万1500rpmまで引き上げ。このモデルは中期型と呼ばれる。
ミッションは狭いパワーバンドが有効的に使えるよう(当時のレース用エンジンの多くは極めてピーキーな特性だった)、多速8段リターンミッションを採用。乾燥重量は61kgまで軽量化。パワフルなエンジン、レース専用のY部品を装着した外装、贅肉を削ぎ落とした軽量な車体により、最高速度は130km/hを超えた(メーカー公表値)。
その実力は、サーキットでも遺憾なく発揮。1962年、鈴鹿サーキットで行われた第1回全日本選手権のノービス50ccクラスでは、予選・決勝を通じてCR110が強敵の2スト勢を抑え、上位を独占。また同年のマン島TTレースでは、ワークスマシンとともに出場し、見事9位に入賞している。
ボアを40mmから40.4mmに拡大した後期型
前傾35度のDOHC49ccエンジン。細めのシリンダーから左右に大きく張り出した、別名「ミッキーマウス」とも呼ばれるカムシャフトカバーが特徴的だ。
8.5psのレース仕様車のエンジンは、その後2点の改良を受けてポテンシャルをアップ。なお、エン
ジン仕様変更後のモデルは、後期型と呼ばれる。変更点は…
<1> 50ccのレギュレーションに限界まで近付けるため、ボアを40mmから40.4mmに拡大。
<2> クラッチの操作性を向上させるため、シフトギアスピンドルの爪を2個から4個に変更。また、パーツ形状も大型化して耐久性をアップ。
なお、シフトギアスピンドル変更&大型化の有無は、クラッチ上部のクランクケースの盛り上がり具合で確認できる。写真は後期型のエンジン回り。
現存する車両はごくごくわずか
モーターサイクルショーで衝撃的なデビューを果たして以来、市販後も注目の的だったCR110カブレーシング。当時は若者を中心に、絶大なる人気を誇った。
ただし販売価格は17万円(1960年発売のスポーツカブC110は5万8000円)。50ccのオートバイとしてはまさに破格値。多くの者にとって、CR110カブレーシングは憧れのマシンだったわけだ。
生産台数は初期型・中期型・後期型を合わせて、わずか246台(メーカー発表)。そのため、現存する“本物の”CR110カブレーシングはごくごくわずか。中古車市場はもちろん、ネットオークションに登場することもまずない。ちなみに写真上は、アルミ叩き出しのフルカウル装着車。
アルミ叩き出しのロケットカウルを装着した、レース仕様のCR110カブレーシング。カウルは職人による手作りのもの。
ハンドルは低めに設定されたセパレート型。メーターはタコメーターのみ。
ブレーキはレーサーながら前後ともドラム式。時代を感じさせるアイテムだ。
CR110カブレーシングの復刻版、ドリーム50
1996年(平成8年)、多くのヒャクトーファンからの声を受け、CR110カブレーシングはドリーム50として復活した。
前後に伸びた細長いタンク、レトロな外観のシングルシートなど、そのフォルムはレーサー仕様の中期型と後期型に近いもの。
ただしパワーは5.6ps/1万500rpmにダウンされているため、パワーを求めるユーザーは、社外製ボアアップキットやHRC製エンジンパーツでチューニングするのが定番。
乾燥重量は81kg、ミッションは5速。シルバーはスタンダード、レッドカラーは限定1000台のスペシャルエディションカラー。
HRCがプロデュースしたドリーム50R
ホンダのレース部門であるHRCが手掛けた、レース専用のドリーム50R。
市販のドリーム50をベースに、HRC製「Dream50用レース専用キット」のカムシャフト、バルブスプリング、ピストンを導入。また、低フリクションカムチェーン、クランクシャフト、軽量ACジェネレーター、レース専用設計のキャブレターやエアファンネルも組み込み済。
エキゾーストパイプ部分は二重管構造から単管に変更し、排気効率を高めている。
最高出力はノーマルの5.6ps/1万500rpmから、7.0PS/13,500rpmにアップ。
ミッションは6速クロスミッションがチョイスされている。販売価格は49万1400円(平成22年に販売終了)。
スペックの比較表 | |||||
CR110前期型 (公道仕様) |
CR110中期型 (レース仕様) |
CR110後期型 (レース仕様) |
ドリーム50 | HRC ドリーム50R |
|
全長 | ー | 1725mm | ← | 1830mm | 1790mm |
全幅 | ー | 510mm | ← | 615mm | ← |
全高 | ー | 780mm | ← | 945mm | ← |
軸距 | ー | 1155mm | ← | 1195mm | ← |
乾燥重量 | 75kg | 61kg | ← | 81kg | 71kg |
キャスター角 | 26° | ← | ← | 25° | ← |
排気量 | 48.984cc | ← | 49.968cc | 49.738cc | 49.738cc |
ボア×ストローク | 40.0mm × 39.0mm |
← | 40.4mm × 39.0mm |
40.0mm × 39.6mm |
40.0mm × 39.6mm |
最高出力 | 7.0ps/1万2700rpm | 8.5ps/1万3500rpm | ← | 5.6ps/1万500rpm | 7.0ps/1万3500rpm |
最大トルク | 0.4kgm/1万1000rpm | 0.46kgm/1万1500rpm | ← | 0.42kgm/8500rpm | 0.45kgm/1万500rpm |
圧縮比 | 8.5 | 10.3 | ← | 10 | 11.7 |
吸気バルブ径 | 16.5mm | ← | ← | 14.0mm | 15.0mm |
排気バルブ径 | 16.0mm | ← | ← | 12.0mm | 13.0mm |
キャブレター | ケイヒンPW20 | ケイヒンRP25-P1 | ← | ケイヒンPC15 | ケイヒンPC20 |
燃料タンク容量 | 8.0L | 9.5L | ← | 6.2L | ← |
オイル容量 | 0.8L | ← | ← | 1.1L | ← |
クラッチ形式 | 乾式 | ← | ← | 湿式 | ← |
ミッション | 5速 | 8速 | ← | 5速 | 6速 |
1速 | 2.058 | 2.260 | ← | 2.692 | 2.846 |
2速 | 1.611 | 1.550 | ← | 1.823 | 2.188 |
3速 | 1.238 | 1.320 | ← | 1.400 | 1.722 |
4速 | 1.091 | 1.130 | ← | 1.130 | 1.450 |
5速 | 1.000 | 1.040 | ← | 0.960 | 1.237 |
6速 | ー | 0.962 | ← | ー | 1.174 |
7速 | ー | 0.893 | ← | ー | ー |
8速 | ー | 0.852 | ← | ー | ー |
1次減速比 | 4.66 | ← | ← | 4.437 | ← |
2次減速比 | 2.92 | ← | ← | 3.583 | 2.867 |
タイヤ(前) | 2.00-18 | ← | ← | 2.50-18 | ← |
タイヤ(後) | 2.25-18 | ← | ← | 2.50-18 | ← |
ブレーキ(前) | ドラム式 | ← | ← | 油圧式ディスク | ← |
ブレーキ(後) | ドラム式 | ← | ← | 油圧式ディスク | ← |
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