伝説のホンダ横型エンジン搭載モデル、ベンリイCS、SS50

1960年代中盤に“小排気量スポーツモデル”の冠を「スポーツカブ」から「ベンリイ(Benly)」に移行させたホンダ。70年初めに小排気量スポーツの座を、縦型エンジン搭載車に譲るまでの60年代後半、パワフルかつスポーティーな横型エンジン搭載車がいくつか誕生した。

横型OHCエンジンの第1号車、CS90


1960年代中盤、公道は次々にアスファルト化されて交通量も急増。それに伴い、パワーがあり交通の流れにも乗りやすい90ccモデルの人気が急上昇した。

ホンダは1964年(昭和39年)7月、スーパーカブC115(54cc)の後継モデル、「スポーツカブCS90(89.6cc)」を発売。同車はスポーティーな新設計のT字型バックボーンフレーム、C110の17インチからインチアップさせた大径18インチホイールを採用。

エンジンは横型初となる、新設計のOHC単気筒を搭載。ボア×ストロークは50mm×45.6mmのショートストローク型。最高出力は8.0ps/9500rpm、最大トルクは0.65kgm/8000rpm。重量は86.5kg。当時の価格は7万2000円。ミッションは4速。最高速度は100km/h(メーカー発表値)をマークした。


テレスコピック式Fフォークなど、足回りも充実したCS90。1965年(昭和40年)、チェーンケース・プレススイングアーム・荷台を装備したCS90-2、チェーンケース・プレススイングアーム・別体シートを装備したCS90-3(写真上)を追加。なお、名称は「スポーツカブCS90」から「ベンリイCS90」に変更となった。

ボア44mm×ストローク41.4mmのCS65

1964年(昭和39年)12月には、6V&12V横型エンジンのルーツとなる新設計のOHC63ccエンジンを搭載したスポーツカブCS65(写真)が登場。

ボア×ストロークは、エンジンを回してパワーを稼ぐ高回転型の44mm×41.4mmショートストローク。最高出力は6.22ps/1万rpm、最大トルクは0.485kgm/8500rpmを発揮した。ミッションは手動式4速ロータリーを採用。重量は77.5kg。当時の価格は6万3000円。最高速度は90km/h(メーカー発表値)をマーク。

フロントフォークはスポーツカブC110にも採用のフルボトムリンク式。冷却風によるガソリンの低温化を防ぐため、オイルラインをキャブレターにバイパスさせたユニークな『キャブヒーター機構』も装備している。詳細は下記を参照。

なお、1966年(昭和41年)には「スポーツカブCS65」から、「ベンリイCS65」に名称変更となっている。

レース用OPパーツ「Yキット」を備えたベンリイCS50

1965年(昭和40年)、5ℓガソリンタンクなどCS65の外装・フレーム・足回りにセミシングルシートを組み合わせ、ボア39mm×ストローク41.4mmのロングストローク型OHC49ccエンジンを搭載した「ベンリイCS50」が登場。最高出力は5.2ps/1万250rpm。

同車には、ハイカムシャフト、ヘッド部の盛り上がった高圧縮型ピストン、ウェブ径を87mmから80mmにして軽量化したクランクシャフト、肉盛り処理された高回転にも耐えうるロッカーアーム、大径の吸排気バルブ、専用バルブスプリング、高耐久型バルブスプリングリテーナー、高耐久型カムチェーンテンショナー、20φキャブレター、エアファンネル、リターン式クロスミッション、ストレート構造のダウンマフラー、ローハンドルキット、テレスコピック式フロントフォーク、ダンパー機能付リヤショックなど、「Yキット(Y部品、Yパーツ)」と呼ばれるメーカー純正のオプションパーツが設定されていたのが特徴。

当時、Yパーツは非常に高価で、しかも少数生産のレース用パーツ。その多くはレースに使用されており、現存するものは極めて少ない。そのため、Yキットは今でも一部のマニアの間では“幻の超お宝パーツ”として珍重されている。

レース専用のYカムシャフトは一般公道ではとても使いづらく、市販モデルに導入されるようなプロファイルではないともいわれる。

C110とCSシリーズのユニークな機構

スポーツカブC110(写真)や、ベンリイCS90/65/50Cのオイルラインは、なぜかキャブレターを経由している。

これはPW型キャブレター(PC型の前身モデル)が、冷却風によってガソリンをアイシングしやすく、霧化の性能がかんばしくなかったことが原因だとされる。オイルの熱によってキャブレターを温め、混合気の霧化性能を上げるのが目的だったようだ。

このシステムは、電気でキャブレターを温めることによってピストンバルブの固着を防ぐ寒冷地仕様の「キャブヒーター」と同じしくみ。

マニホールドの長さにも注目

スポーツカブC110(写真上)やベンリイCS90/65/50Cには、長いインテークマニホールドを備えたフレームマウント型のサイドドラフト式キャブレターを採用。

「チューニングエンジンは吸入効率を上げるため、キャブと燃焼室を近づける」という現在の常識とは間逆の吸気系システムが導入されている。

当時のホンダ小排気量スポーツモデルの多くには、この超ロング型インテークマニホールドが採用されていた。ちなみにこれは、トルクを稼ぎ出すためのもの。パーコレーション(ガソリンが気化して噴き出す現象)を防ぐため、ゴム製のインシュレーターを採用して断熱化しているのもポイントだ。

「ホンダ横型エンジン最強」のベンリイSS50

60年代後半、サーキットや公道において小排気量車は、ここ一番でパンチのある2ストエンジン搭載マシンが優勢になりつつあった。しかしホンダは、かたくなに4ストにこだわった。そのこだわりの化身ともいうべきモデルが、1967年(昭和42年)に発売されたベンリイSS50。

全日本ロードレース50ccクラスのレギュレーション変更により、DOHC4バルブエンジン搭載の市販レーサー・CR110カブレーシングのエントリーが不可となった。その代替モデルが、このSS50。

ホンダは1968年(昭和43年)の世界GPを機に、バイクレース活動を休止(四輪のF1参戦が主な理由)。そのため、ホンダ社内のバイク好きの有志たちがプライベートチームを結成。SS50をベースにチューニングを施し、レースを楽しんでいた。

ちなみにSS50の“SS”とは「スーパースポーツ」を指す。

カブ系横型エンジン搭載スポーツの最終モデル、SS50

SS50のエンジンは、ボア39mm×ストローク41.4mmの横型OHC49cc。ノーマルながら、高圧縮型ピストンやハイカムシャフト(カムシャフトはCS65と同じプロファイル。JKカムとも呼ばれた)など、随所にCS50用と同スペックのエンジンパーツを導入。最高出力は横型エンジン最高峰の6.0ps/1万1000rpmを発揮した。

ミッションはホンダ50cc初となるスポーティーな5速リターンを採用。同ミッションは、当時モンキーにも「カスタムパーツ」として多数流用された。

SS50にはスポーツモデル伝統のTボーンフレーム、17インチホイール、CS50用Yキットがベースのテレスコピック式フロントフォークなど、当時の最新技術がフル投入されている。

最高速度は95km/hをマーク。1970年には外装を変更するなどモデルチェンジ。翌1971年には、新設計された縦型エンジン搭載のベンリイCB50がデビューを果たしている。

SS50はカブ系エンジンを搭載したスポーツモデルとしては最後となるモデル。「横型エンジン最強」である同モデルを支持するアダルト層は、まだまだ多い。

●SPEC 

全長:1780mm/全幅:610mm/全高:920mm/乾燥重量:68kg/燃料タンク容量:5.5ℓ/エンジン形式:空冷4サイクルOHC単気筒49cc/ボア×ストローク:39mm×41.4mm/圧縮比:9.5/最大出力:6.0ps/1万1000rpm/最大トルク:0.40kgm/1万rpm/変速機:5速リターン/クラッチ:手動式/タイヤサイズ:前後2.50-17/当時の価格:6万2000円

ワイドスクランブラー、ベンリイSL90

1969年(昭和44年)に発売されたワイドスクランブラー、ベンリイSL90。鋼管による剛性の高いダブルクレードルフレーム、テレスコピック式フロントフォーク、フロント2.75-19インチ、リヤ3.25-17インチサイズのタイヤを採用した大型サイズのオフロードモデルだ。

CL90ベースの横型エンジンはトルクフルで粘り強い走行性能を発揮。最高出力は8ps、登坂力は20°、最高速度は95km/hをマーク(メーカー発表値)。ミッションは手動式4速リターンを採用している。

●SPEC 

全長:1880mm/全幅:810mm/全高:1075mm/乾燥重量:95kg/燃料タンク容量:8.5ℓ/エンジン形式:空冷4サイクルOHC単気筒89cc/ボア×ストローク:50mm×45.6mm/圧縮比:8.2/最大出力:8.0ps/9500rpm/最大トルク:0.66kgm/8000rpm/変速機:4速リターン/クラッチ:手動式/タイヤサイズ:前2.75-19 後3.25-17/当時の価格:8万9000円 

Tボーンフレーム&横型エンジンは、ビジネスモデルに移行

超ロングセラーモデルのベンリイCD50とベンリイCD90は、スーパーカブと同カテゴリーの“ビジネスモデル”として、スーパーカブ登場から10年後の1968年(昭和43年)に登場した。

横型エンジン搭載のスポーツモデル、ベンリイSS50が、“小排気量スポーツ”の座を縦型エンジン搭載のベンリイCB90に譲って以来、スポーツモデルの象徴だったTボーンフレーム+横型エンジン採用モデルは、「誰でも扱いやすいビジネスモデル」へと移行。

その結果、ベンリイCD50とベンリイCD90は、スーパーカブと同じビジネスモデルとしてカテゴライズされた。その後、ベンリイCDシリーズは65ccのベンリイCD65、セル付のベンリイCD50MとベンリイCD65Mもラインナップ。写真上は1970年(昭和45年)発売のベンリイCD50。

1970年(昭和45年)発売のベンリイCD90。ビジネスバイクという位置づけ通りのアダルトな外観とカラーリングが特徴。

【横型エンジン搭載スポーツ車etc.】

→ スポーツミニの元祖、スポーツカブ

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