「リューター」という工作機械を使ったシリンダーヘッドのポート加工は、さらなるパワーアップやトルクアップが狙える定番のチューニング術。ポート(孔)を削り、適切な形状に変更するこの作業は、豊富な知識と経験、そして技が要求されるハイエンドユーザーならではの手法です。
バイクのポート加工とは、シリンダーヘッドの「ココ」を削る作業
「ポート」とは、シリンダーヘッドにある「吸気ポート」と「排気ポート」と呼ばれる孔(ポート)。「吸気ポート」はキャブレターで作られた混合気を送り込む孔、「排気ポート」は爆発によって発生した燃焼ガス(排ガス)をマフラー側に排出するための孔を指します。
ポート加工とは、「必要のない箇所を削って流速を上げる=パワーを上げる」手法です。
モンキーのシリンダーヘッド
シリンダーヘッドには「吸気ポート」「排気ポート」の他、ロッカーアーム、吸気バルブ、排気バルブ、カムシャフトなど4ストならではの設置があります。写真下は12Vモンキー。
混合気を吸入する「吸気ポート」
パワーの源、混合気の通過路となる吸気ポート。ポート入口にはマニホールドが接続されます。
排気ガスを排出する「排気ポート」
排気ガスの通過路となる排気ポート。この箇所にはマフラーのフランジ部(接続箇所)が固定されます。
エンジンのポート加工前に、シリンダーヘッドの「内部」を確認
ポート加工には、とても重要な箇所があります。それは「バルブガイド」と「バルブシート」というところ。エイプの縦型エンジンを例に説明します。
シリンダーヘッドの「バルブガイド」
吸排気バルブのステム部を支えている、バルブが貫通する箇所。バルブスプリング側から打ち込まれています。
写真上のエイプ用同様、12Vモンキー用(ノーマル)もバルブガイドは各ポート側に突き出ていますが、ポート加工時に露出部分を削り加工する場合あり。
12Vモンキー用(ノーマル)のバルブガイドは、吸排気側とも素材は同じ。バルブガイドが劣化・損傷している場合は要交換です。打ち抜き・打ち替え作業は素人には無理なので、内燃機屋さんやチューニングショップに依頼しましょう。
シリンダーヘッドの「バルブシート」とは?
吸排気バルブフェイス(傘の部分)に接触している箇所。吸排気ポートの燃焼室側に圧入されています。主な特徴は、
・燃焼室に送り込まれて圧縮される混合気が、バルブフェイス周りから漏れるのを防止。これによって高い圧縮圧力を確保。
・バルブフェイス周りの強度を保つ役割がある。
・バルブの熱を逃がし(特に排気側)、バルブの冷却性を向上させる役割がある。
エンジンのポート加工でパワーアップできる理由
吸気ポートは混合気を、排気ポートは排気ガスを通過させるための孔(ポート)。この孔を拡大し、パワーが出やすい形状に整えることによって、
・より多くの混合気をスムーズに送り込むことができる
・爆発後に発生した排気ガスを、よりスムーズに排出させることができる
というメリットが生まれます。
ポート加工の方法は「リューターで削り、整える」。これが基本!
ポート加工には「リューター」という工作機械を使用。この機械はスイッチをONすると、研磨石や磨き素材を備えた先端が回転。固い金属製のポートを削り、整えてくれます。
リューター先端部の研磨棒や研磨石は、目の細かなもの、大きなもの、小さなものなど様々なタイプがあります。もちろん交換も可能。ポート形状や箇所に合わせ、先端が変更します。ポートを削り込む場合、写真右の粗削り用から順番に使用していくのが基本です。
また、リューターには電動式とエア式(コンプレッサーで動作するタイプ)があり、粗削り用にはパワーのあるエア式、仕上げ用には繊細な動きの電動式を使用するのが定番です。
モンキー用シリンダーヘッドのポート加工
単純に孔(ポート)を拡大し、形状を整えるだけでは大幅な性能アップは望めません。ポート加工は素人が考える以上に繊細なものです。
4ミニチューニングのエキスパート「オートボーイSS」に、12Vモンキー用シリンダーヘッドのポート加工の方法を教えてもらいました。
今回ポート加工した12Vモンキー用シリンダーヘッドは、「50ccのままどこまで速くできるか?」を目指して加工したもの。ノーマルに比べ、中高回転域で気持ちいいほどの伸びを示すのが特徴。また加工したシリンダーヘッドは、排気量88ccでも十分楽しめるのがポイント。
モンキーの吸気ポート:バルブガイドを切削加工
ノーマルはポート径13.7mmですが、加工後は21.4mmまで拡大(実測値)。内壁の表面もキレイに研磨されています(ただし適度なザラツキあり)。
写真では確認できませんが、ポートの奥にあるバルブガイドは切削済み。これは混合気をキレイに流すためです。バルブガイドの切削は、社外ヘッドによっては耐久性が低下する場合があるので注意しましょう。
▲燃焼室側から見た吸気ポート。この孔はノーマルの吸気バルブフェイスが密着するため、両者の径は同じです。ただしノーマルヘッドに比べ、加工後はポート内部が削り込まれ、内壁表面は丹念に研磨。「えぐれ具合」と「指触り」の違いは、指で触れてみると瞬時に分かります。
▲吸気ポートのイメージ(燃焼室側)。加工ヘッドはシリンダーブロックの側壁部を削り込むことにより、流速をアップしています。
モンキーの排気ポート:内径を若干拡大加工
ノーマルはポート径13.4mm、加工後は16.2mmに出口をやや拡大(実測値)。大胆な削り込みはなく、吸気ポートとのバランスを考慮し、適度に拡大。内部の形状も変更されています。
ポート内は吸気ポートと同じく、適度なザラツキあり。スムーズな燃焼ガスの排出を考慮し、ポート奥にあるバルブガイドが切削されているのもポイントです。
昔は「排気ポートもデカければいい」という時代がありました。しかし無暗に排気ポートを拡大し過ぎると、各部のバランスが崩れて高回転が回りにくくなる傾向があるので注意しましょう。
吸気側と排気側の「バルブシートの素材」の違い
12Vモンキー用ヘッド(ノーマル)の場合、吸気側と排気側とでは、バルブシートの「冷却率」と「素材の固さ」に違いがあるようです。
吸気バルブシートは、混合気によって冷えやすい傾向にある。一方、高温な排気ガスによって常に苛酷な状況にある排気バルブシートは、吸気側よりも熱に強い素材を選んでいます。
具体的には、排気側は吸気側よりも冷却率が高いのが特徴。また吸気側に比べ、排気側は焼きが入ったように固いのがポイント。削り込んだ後の素材の残り具合や残りカスも、排気側と吸気側とでは違いがあるようです。
バルブフェイスの形状を変更
ポート加工に合わせ、今回は吸排気バルブも加工。加工メニューは、
1:バルブのステム部分を5.4φから4.5φに小径化(実測値)。
2:バルブのフェイス面を研磨(ノーマルに比べてバルブ長が若干短縮している)。
3:バルブのフェイス形状を若干変更。
▲燃焼室に収まった吸排気バルブ。旋盤加工によってノーマルよりも大幅に精度を高めた加工後のバルブフェイス部は、バルブシートへの収まりもピッタリとしているのが特徴。
▲加工後のバルブは旋盤を使い、ステム部分を5.4φから4.5φに小径化。傘の部分も丁寧に整えられているのがポイント。
▲バルブフェイス面と窪みの部分は旋盤を使って削り加工。バルブフェイスの周囲も、コンマ数ミリの単位でテーパー加工されています。これによって高回転域でのオーバーラップ時のピストン接触を回避。
上記の加工よってバルブが軽量化され、バルブの追従性がアップ。またポート内の吸排気抵抗を減らすとともに、バルブが開いた瞬間の流速がアップします。
なお、2と3の加工は、高回転域でのオーバーラップ時(吸気バルブ&排気バルブの両方がわずかに開いた状態)にバルブフェイスがピストンに接触せず、ノーマルの小径バルブでも最大限のポテンシャルを発揮するというメリットがあります。
エイプ用シリンダーヘッドのポート加工
エイプの吸気ポート:肉厚部を大幅に削り加工
▲ノーマルに比べ、加工後のポート径の入口は約4mm拡大(実測値)。ポート内部の流速を上げるため、肉厚部は大幅に削り加工済み。砂型の跡による表面のザラツキがキレイに整えられているのも特徴。滑らかな形状を保つため、バルブガイド周辺はあまり削られていません。
エイプの排気ポート:バルブガイド回りはフィン状に加工
▲排気ポートの出口径は、ノーマルに比べて約1mm拡大(実測値)。吸気ポート同様、加工後は内壁表面のザラツキがキレイに整えられ、肉厚部分は大幅に削り込まれています。フィン状に仕上げられた(傾斜を付けて尖ったように残された箇所)バルブガイドの周辺部分もポイント。
ノーマルの横型ヘッドは、バルブガイドを削るとポート内がキレイに仕上がるのが特徴。一方、ノーマルの縦型ヘッドはバルブガイドを削ると、ポート内の形状が不細工な格好になってしまうのがネック。縦型ヘッドのバルブガイドは、残しつつ加工するほうがキレイに仕上がります。
エンジンのポート加工はトータルバランスが重要
ポートを大きくすれば、パワーは上がるものなんですか?
オートボーイ(以下・オ):ポート拡大=パワーが上がるという単純なものではありません。ただ闇雲に大きくしても駄目。吸排気ポートの口径、形状、吸排気ポートのバランス、キャブターの口径、マフラーの太さ等々、他の要素とのバランスを考えながら設定する必要があります。
社外の高性能シリンダーヘッドをポート加工する時の注意点は?
オ:シリンダーヘッドの設計は、各メーカーによって異なるのが特徴。従ってポート加工の方法も微妙に違ってきます。限界までポートを拡大したモデルは、面取りや内壁表面の研磨程度で十分。これとは対照的に、ポートの形状変更に自由度を持たせた加工しやすいタイプもあります。その他、極限まで流速を上げるため、設計段階でポート内のバルブガイドを削り落したモデルもあります。
「ポートの“鏡面仕上げ」は効果があるんですか?
オ:かつてはいろんなチューナーが試していましたね。「混合気の滴が付着するため効率が落ちる」という考え方が一般的になってからは、あまり使わなくなりました。
理想的なポート加工とは?
オ:レースで使うならば、極限まで流速を上げたポート。今回作業した横型シリンダーヘッドは流速を上げるためにバルブガイドを削り落していますが、耐久性を重視してバルブガイドを残す人もいます。ポート加工の方法は千差万別。人それぞれなんです。正解がなく、決して一つには括れない。この点も大きな魅力でしょうね。