ハイエンドユーザーの中には、「エイプの縦型エンジンよりも、モンキーの横型エンジンの方が立ち上がりの加速は上だ」と指摘する人も。その真偽のほどを、数々の4ミニレーサーを手掛けてきた「ファルコン」の代表・和田氏に聞いてみた。
横型はコーナーの立ち上がりが鋭い?
– 縦型エンジンよりも横型エンジンの方が、立ち上がり加速が鋭いと指摘するユーザーがいます。
和田氏(以下、和):縦型エンジンのルーツは、“打倒・2スト”を目指して設計されたベンリイCB90。スポーツ性を重視した縦型は、エンジンの各パーツがコスト&実用性を重視したカブ系の横型よりも頑丈にできています。
– チューニングエンジンの場合、昔から縦型は横型よりも壊れにくいといいますね。クランクケースなど、各部が頑丈だとか。
和:頑丈にできているということは、裏を返せば重いということ。実用性を重視して設計された横型エンジン内部の各パーツは、縦型の各パーツよりも基本的に軽くできているといえます。
– 軽いと、どうなるんですか。
和:フリクションが軽減されます。その結果、排気量やキャブレター、気象条件等が同じなら、コーナーの立ち上がりなどの加速が、縦型よりも横型の方がいいんです。特に125ccでカートコースを走った場合、ストレートが短くてコーナーもタイトだから、限界までエンジンを回すことは稀。結果として、エンジンを壊さずに速く走れる、というわけです。
「打倒2スト」を目指し、1970年に登場した4ストスポーツ、ベンリイCB90。高度なメカニズムを誇る、高回転・高出力の新設計エンジンに、スポーティーな5速ミッション、大容量クラッチなどを採用。優れた操縦安定性を生み出す、剛性の高いコンバインドフレーム、抜群の制動力を誇るフロントディスクブレーキなどを装備。
ロードコースでは“重い”縦型が有利?
– 狭いコースでは横型が有利。では広大なロードコースでは?
和:排気量が同じ場合は、ロードコースでは縦型かな? 先程も指摘しましたが、縦型はエンジン各部が横型よりも重い。狭いカートコースではフリクションロスが少なく、加速やレスポンスに優れた“軽い”横型エンジンが有利。しかし、長いストレートや高速コーナーが続くロードコースでは、強い遠心力が働く“重い”縦型エンジンの方が有利だと思います。
– 遠心力ですか…。バケツをブルンブルンと振り回した時、空っぽの軽いバケツよりも、水の入った重いバケツを振り回す方が安定するのと同じ現象ですね。
和:そう。高速道路では空荷のトラックよりも、荷物を満載したトラックの方がスピードに乗れる。というイメージかな。
パワーだけではダメ。すべてはバランスが重要
– ファルコンではNSR用フレーム&足回りに、縦型エンジンを搭載したレース仕様のRCV-miniが有名です。なぜ、横型エンジンを選ばなかった?
和:レースでは単にパワーが大きいだけではダメ。フレームや足回りのバランスが重要です。NSR用フレーム&足周りと縦型エンジンの組み合わせは、とにかく安定しています。コーナリング性能も抜群ですし。
– 確かにNSF100も縦型エンジンを採用しています。やはりNSR用フレーム&足回り+縦型エンジンは“4ミニ最強”なんでしょうか。
和:ロードコースでの耐久レースに、足周りを徹底強化し、前後12インチを履いた124ccフルチューンのモンキーRで出場したことがあります。ただし、当初は“速いライダー”を持ってしても、NSF100改やワンオフアルミフレーム+縦型エンジンを備えた上位マシンにはかないませんでした。
ライダー曰く、ストレートでは縦型についていけるが、コーナーで引き離されてしまう。RCV-miniと比べてみると、フロントが外に逃げていく感じ。つまりアンダーステア気味になるらしい。
– モンキーRはスチール製ながら、NSR用フレームのベースにもなったバックボーン・ツインチューブフレームを採用。NSR用と同様、現在でも剛性の高さには定評がありますが…。原因はどこにあったのでしょうか。
和:ノーマルのモンキーRは、前後とも10インチを採用しています。これに前後12インチを履くわけですから、ノーマルに比べて当然バランスは崩れる。キャスター角の、剛性不足など、いくつかの要因が弊害となったんでしょうね。
写真は2000年前半に数々のスプリントレースで活躍した、水本レーシングのモンキーRをベースにした4ミニレーサー。「モンキーRには10インチがベスト」という理由から、フロントホイールは10インチ、タイヤはF3.50-10を採用(ただしリヤは12インチ。タイヤサイズはR120/70-12)。だが、後に12インチタイヤの方がグリップ力に秀でている、コーナーの出口でスロットルを開けるタイミングが早められる等の理由から、フロントも12インチに変更された。
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