NSR-MiniやNSF100の兄貴分、ホンダ(HONDA) NSR50/80

ミニバイクレースが益々盛り上がりを見せる1987年(昭和62年)5月、ホンダは満を持してNSR50を市場に投入。通称“Nチビ”と呼ばれたこのモデルを探ってみよう。

ワークスマシンのNSR500を3/4サイズに縮小

 

レーサーレプリカブーム真只中の1986年(昭和61年)2月、スズキが空冷4スト50ccエンジンを積んだGAGを、同年5月にヤマハが7.0psは発生する空冷2スト50ccエンジンを搭載したYSR50をリリース。両車はミニバイクレースでも人気となり、サーキットでは「空冷4ストのGAG vs 空冷2ストのYSR」という図式が激化した。

ミニバイクレースが益々盛り上がりを見せる1987年(昭和62年)5月、ホンダは満を持してNSR50を市場に投入。通称“Nチビ”と呼ばれたこのモデルのポイントは、ワークスレーサーのNSR500をイメージしたカウル類、モンキーR用をベースにしたツインチューブフレーム、12インチアルミキャストホイール、前後ディスクブレーキ、6速クロスミッション、YSR50を凌ぐ7.2psのハイパワー水冷2スト50ccエンジンなど、サーキットを“攻める”ための本格的な機能を装備していること。

「NSR500を3/4にサイズダウンしたスポーツモデル」というコンセプト通り、アグレッシブな走りを可能にした。同車のポテンシャルの高さは、ミニバイクレースでもすでに実証済み。M50クラス(ミッション付ノーマル)やSP12クラス(ミッション付準改造)などでは、上位マシンのすべてがNSR50なんてことも珍しくなかった。

厳しい排ガス規制によって99年モデルを最後に、2ストエンジンを搭載した同モデルは惜しまれつつ生産終了。そのレーシングスピリッツはレース専用のNSR-Mini、そして4ストのNSF100へとバトンタッチした。絶版となった今でも、サーキットからストリートまでNSR50は根強い人気を誇っている。

→ 2ストレーサーのNSR-Mini、4ストレーサーのNSF100

93年には6本ホイールに変更

 

NSR50/80は87年から99年まで生産。その間、何度か大きなモデルチェンジを受けている。大きな分岐点となるのは、前後のホイール形状が3本型から6本型になった93年(頑丈なため、レースでは3本型が人気)。そしてエンジン各部や足周りが強化されるなど、事実上フルモデルチェンジとなった95年。

95年の変更時には、フロントフォーク長(ボトムケース下からトップ部まで)を約40mm延長。ちなみにフォーク長は変更前が約575mm、変更後が約615mm(スプリングの新旧によって異なる)。NSR50用フロントフォークはモンキーなどの4ミニチューニングにも多用され、一般的に変更前を「前期型」、変更後を「後期型」と呼んで区別している。

→ 純正フロントフォークの流用術

7.2psの水冷49ccエンジン

NSR50は高性能な水冷2スト単気筒49ccエンジンにケーヒン製18φキャブレターを組み合わせ、メーカーの自主規制となる7.2psまでパワーアップ。速度リミッターを解除する社外CDIへの交換、エンジンのポテンシャルを目一杯引き出す社外チャンバーへの交換、キャブレターのメインジェット変更等で、ノーマルとは3ランクアップの過激な走りを実現してくれる。

→ 電装系チューンの定番パーツ、CDI

→ 2スト用チャンバー、そのパワーの秘密

→ キャブレターのセッティング方法

ハイパワーな79cc版

 

最終モデルまでNSR50と平行してリリースされたNSR50の兄貴分、NSR80。50のボアを39mmから49.5mmに拡大し、排気量を79ccまで拡大。乾燥重量は50よりも1kg増ながら、パワーは1.6倍アップの12psを出力。ボア×ストロークは50が39.0mm×41.4mmのロングストローク型(モンキーと同サイズ)なのに対し、80は49.5.0mm×41.4mmのショートストローク型。排気量の他、ミッションの変速比(5速と6速)や2次減速比、フロントフォーク内のオリフィス径、スピードメーターなどが異なる。

●NSR50のスペック(カッコ内は80/※データはともに99年最終型)

型式:A-AC10(HC06)/全長:1580mm/全幅:590mm/全高:935mm/乾燥重量:78kg(79kg)/燃料タンク容量:7.5L/エンジン形式:水冷2サイクル単気筒49cc(79cc)/圧縮比:7.2(7.1)/最大出力:7.2ps/10,000rpm(12ps/10,000rpm)/最大トルク:0.65kgm/7,500rpm(0.97kgm/8,000rpm)/変速機:6速リターン/点火方式:CDI/タイヤサイズ:前100/90-12 後120/80-12/発売価格(当時):28万5000円(29万9000円)

NSR80/80のチューニング サーモスタット外し&水温計装着

シリンダーヘッドの上部にあるサーモスタット部分。この突起部分の中にセットされたバルブ付のサーモスタットを取り外す。ヤケド防止のため、作業は「必ずエンジン(冷却水)が冷えた状態であること」「事前に冷却水を抜いておくこと」が前提。

このサーモスタット外しは、NSR50のエンジンチューンの定番中の定番。サーモスタットとは、エンジンが暖まりにくい冬場に重宝するシステム。エンジン始動後、できるだけ早くエンジンを暖めるため、水温が低い時にはサーモスタットのバルブが閉鎖。ラジエターに冷却水が循環しないよう、冷却水をシャットアウトする。

ノーマルは60℃前後でバルブが開き、ラジエターへ冷却水を圧送。

「NSR50はバルブの冷却水路が狭いため、高回転を多用するサーキットでは水温が上昇し、パワーダウンを招いてしまう」「温度に関係なく冷却水が循環。水温が上がりにくくなり、ノーマルよりも水温が上がるまでの時間が稼げる」

などのメリットがある。

→ 水冷エンジンとラジエターの関係

チューニングエンジンはもちろん、高回転を多用する人は水温計(中央のメーター)を別途装着して水温を監視・管理したい。理想の水温は50から60℃くらい。

NSR80/80のチューニング 吸気系チューン

ノーマルに採用のエアクリーナーは、「どんな天候でも、どんな気候でも、キャブレターのセッティングを変更することなく乗れること」を前提に設計。ただし長いエアダクトや大きなエアクリーナーによる抵抗を受けるため、市販のエアファンネルやエアフィルターに比べて吸気効率は低下。その結果、パワーやレスポンスが劣るのがネック。レーサーにはエアファンネル、ストリートカスタムにはエアフォルターに交換するのが一般的。

写真はNSR50用のエアクリーナー。この中にスポンジ状のフィルターがセットされる。性能は安定するものの、抵抗を受けやすいためパワーは出しにくい。

→ エアクリーナーBOX,エアフィルター,エアファンネルの違い

抵抗なくダイレクトに空気が吸えるため、混合気の量も増加=パワーやレスポンスがアップする。ただしゴミやホコリを吸い込みやすいため、公道走行には向いていない。

NSR80/80のチューニング ラジエターの大型化

真夏でも高回転を多用するレースでは、エンジンの熱量が増大。特に70cc前後までボアアップしたレーサー(ミニバイクレースではオープンクラスに該当)の場合、ノーマルのラジエターではまかないきれないことが多い。そこで登場するのが他車用ラジエターの流用。NSR50用ラジエターの容量は、ライバル車のTZM50R用と比べて意外とコンパクト(2個並んだ写真を参照)。

ノーマルラジエターに加え、取り付けステーや冷却水のラインを加工して他車用を追加装着する、またビッグスクーター用やビッグバイク用の大容量ラジエターに交換するなど手法がメイン。→ 水冷エンジンと空冷エンジン

写真上はNSR50用、写真下はTZM50R用のラジエター。同じ50cc用ながら、容量には大きな違いがある。

NSR80/80のチューニング 他年式用シリンダーヘッドとパッキン流用術

NSR50のシリンダーヘッドは0.75mmヘッド面研磨された87年型-92年型用、ヘッド面研磨なしの93年型-99年型用がある。両ヘッドは半球状の燃焼室の広さが若干異なっており、87年型-92年型用は燃焼室が狭く(燃焼室が浅い)、93年型-99年型用は燃焼室が広い(燃焼室が深い)のが特徴。

87年型-92年型用の場合はパッキン交換で、また93年型-99年型用の場合は87年型-92年型用シリンダーヘッド&パッキンの交換で圧縮比がアップし、パワーアップが望める。

→ エンジン特性を決定付ける『圧縮比』

写真左はシリンダーヘッドの合わせ面が0.75mm研磨された87年型-92年型用、写真右は研磨なしの93年型-99年型用。87年型-92年型用に比べ、93年型-99年型用は燃焼室が若干大きいのが特徴。

NSR80/80のチューニング 年式によるリードバルブの違い

87年型-92年型(写真左)に比べ、93年型-94年型のリードバルブ(写真右)は幅を若干拡大(段差がない)。しかし95年型-99年型は、87年型-92年型と同サイズに再び狭められているのが特徴。

→ 2ストロークエンジンのリードバルブ

リードバルブはエンジン内に混合気を導くとともに、混合気の逆流を防ぐパーツ。シリンダーとマニホールドの間に装着する。

1987年、NSR50/80登場

レースでも定評のダウンチャンバー装着した初代のNSR50。

1989年、細部を変更

アップチャンバーに変更。またライト周りのカウルデザインを変更。

1990年、カラーを変更

ワークスマシンのイメージカラーに変更。

1992年、カラーを変更

全日本ロードレース選手権250ccクラスで、3年連続チャンピオンを獲得したワークスマシン・NSR250のブラッシュ(刷毛塗り)模様のレッド/ホワイト、また精悍なイメージのレッド/ブラックの2色を設定。NSR80は同パターンのブルー/ホワイト。

1993年、各部を大幅に変更

ホイールを3本スポークから6本スポークに変更。エンジンはシリンダーヘッドを変更。カラーリングに加え、バックミラーのデザインも変更。プッシュキャンセル式ウインカースイッチ、アジャスター付きクラッチレバーも新たに採用された。

1994年、カラーを変更

NSR50には限定販売モデルとして、ワークスマシンの雰囲気が味わえるロスマンズのスペシャルカラーリングモデル(上から3台目)も追加。

1995年、各部を大幅に変更

既存のCDIマグネット点火方式からCDIバッテリー点火方式に変更。クラッチはフリクションディスクを5枚から7枚に増加。フライホイールは軽量化され、ラジエターは容量をアップ。・フロントフォークは延長・改良され、リヤショックは5段階調整可能なプリロードアジャスター付きを新採用。リンク式チェンジペダル、アルミ製トップブリッジも新採用され、シートカウルのデザインも変更されている。

1996年、カラーを変更

1997年のHRCワークスカラーに変更。

1999年、NSR50/80の最終モデル

世界GP500ccクラスにおいて、マイケル・ドゥーハン選手とホンダNSR500による5年連続チャンピオン獲得を記念し、ワークスマシンカラーの「レプソルホンダカラー」を採用。

【合わせて読みたい関連ページ】

→ 2ストレーサーのNSR-Mini、4ストレーサーのNSF100

→ モンキーにNSR用純正フロントフォークを流用

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