ガソリンと空気を混ぜて混合気を作り出す吸気系パーツ、キャブレター。タイプや口径によってエンジンの特性も大きく違ってくるのがポイントです。チューニング車の場合、気温や湿度によってセッティングを変更したほうがいいと聞きますが…。真偽のほどを検証してみましょう。
レーサーは外気状況に合わせてセッティング変更するのが常識
キャブレターはガソリンと空気を混ぜ合わせ、最適な混合気を作り出してくれる吸気系装置。
キャブレターの役割である「混合気の製造」は極めて繊細で高度な作業で、仮にノーマル50ccのエンジンに28φの大口径キャブをポン付けしてもエンジン本来の性能を発揮することはありません。たとえエンジン始動は出来ても、まずまともに走らないはずです。
キャブレターは想像以上にシビアなパーツなので、排気量やチューニング度合いに応じたモデルを選択することが大切です。
キャブレターの動きと構造
キャブレターはガソリンと空気を混ぜ合わせるパーツ。
空気とガソリンの比率を「空燃比」と呼び、低中回転域ではガソリン1に対して空気が14.5、高回転域ではガソリン1に対して空気が空気12~13が理想的な空燃比とされます。
もしも突然の豪雨に遭遇したとしたら?
キャブレターは空気の密度は気温や湿度、気圧によって性能が大きく変化するのが特徴。
たとえば走行中、突如豪雨に遭遇。それを境にエンジンがギクシャクし出したという経験はありませんか? これは突然の大雨によって、湿度が急激に上昇し、混合気が濃くなってしまったのが原因だと考えられます。
特にフィルターを通さず、直接「生の空気」を吸わせるエアファンネル採用車、またエアクリーナーやパワーフィルターを取り外した「直キャブ仕様車」は、これら外気の変化を顕著に感じ取ることができるはず。
「速く走ること」を極限まで追求したレーシングマシンは、気温や湿度が少し変わっただけでもセッティングを変更する。これは常識です。
キャブレターの吸気口に接続する3つのアイテム
キャブレターの空気吸入口には下記の3つのアイテムを接続するのが常識です。それぞれの特徴を見てみましょう。
エアファンネル
空気をダイレクトに、しかも大量に吸入することができるため、燃焼力が増してパワーがアップ。ただし空気中のゴミやホコリを直接吸ってしまう、天候や気候によってキャブセッティングの変更が必要であるため、一般低に公道走行には向いていない。
パワーフィルター
公道走行に適した、エアクリーナーボックスとエアファンネルの中間的な性能を発揮するタイプ。エアクリーナーボックスよりも空気の吸入率がアップしてレスポンスやパワーがアップするのがポイント。通勤・通学にも使用する場合は、フィルター部を雨や泥から守ってくれるカバー付が安心。
エアクリーナーボックス
ノーマル車に多用されるタイプ。大容量かつ密閉性が高いため、外気変化の影響を受けにくく、キャブの性能が一定に保ちやすい。そのため、基本的にキャブのセッティング変更は必要なし。ただしエアファンネルやエアフィルターに比べ、空気の吸入量が抑えられるためにパワーは出にくい。写真はエイプ用純正。
春・夏・秋仕様のまま真冬を走るとどうなる?
テスト車のゴリラは88ccのフルチューン。「チューニング車は季節によってキャブレターのセッティングを変更すべき」かどうかを検証してみました。
テスト日時:1月某日14時 気温:16℃(実測) 天候:晴れ |
テスト車の仕様
ベースマシン:ゴリラ ●エンジン:デイトナ製ハイポートヘッド88cc ●マフラー:社外製 ●キャブレター:ヨシムラミクニTM-MJN24(社外パワーフィルター装着) ●メインジェット:82.5♯ ●スロージェット:12.5♯ ●ジェットニードルクリップ:真ん中 ●キャブレターのセッティング時期:6月 |
現況、キャブレターはメイン82.5♯、スロー12.5♯に設定
モンキー用のヨシムラミクニTM-MJN24キットに、社外のエアフィルターを組み合わせ。デイトナ製インマニに装着するため、ラバーマニホールドのキャブ取り付け穴は工作機械を使って小判穴加工しています。
モンキー用はメーカー出荷時、オーバー100ccへの装着を想定し、メインジェット95♯、スロージェット25♯が組み込まれています。
現況、88ccのこのマシンは、メイン82.5♯、スロー12.5♯まで番手を縮小しています。
アイドリングから季節の違いを体感
気温は実測16℃と高めですが、北風のせいで体感的にはかなり寒く感じられます。エンジンを始動し、入念に暖機運転を実施。チョークを戻しながら、アイドルスクリューでアイドリングを調整します。2000rpm付近で安定させ、軽くアクセルを煽ってみると…。春夏秋には見られなかったエンジンの息継ぎが発生。やや混合気が薄くなっている模様です。
まずはエアスクリューを閉めてガソリンを濃くしてやります。限界まで閉めたところで、キレイに吹け上がるようになりました。早速スロージェットを12.5♯から15♯に変更し、低回転域を冬仕様に変更します。
メインジェットは82.5♯から85♯、また87.5♯にそれぞれ変更。85♯では中高回転域が若干薄く、87.5♯ではまずまず。念のため90♯にしたところ、若干濃いという結果。
メインジェットは87.5♯に決定しましたが、ひとつ気になったのが中回転域でのパワーの谷間。6000rpmあたりで一瞬ボボォォと失速してしまい、スムーズに吹けません。
混合気が濃いのかな? と思いつつ、試しにジェットニードルクリップを一段上げ、中回転域での混合気をやや薄めに設定。するとこれまでの谷間が嘘のように消え去り、低回転から高回転までキレイに吹け上がるようになりました。
春夏秋仕様と冬仕様の違い(上記テスト) | |||
スロージェット | メインジェット | ジェットニードルクリップ | |
春夏秋仕様 | 82.5♯ | 12.5♯ | 真ん中 |
冬仕様 | 87.5♯ | 15.0♯ | 上から2段目 |
直キャブは温度&湿度差に敏感?
「直キャブは外気の変化に敏感である」これを体感すべく、ゴリラのキャブセッティングが決まった時点でパワーフィルターを取り外し、テスト走行。外気温度は昼間の16℃から4℃に低下しています。とにかく寒い!
まずはエンジン始動。アイドリングに問題なし。エンジンをよく温め、いざスタート。低回転域ではアクセルレスポンスがやや向上。ただし言い換えれば、何となく神経質になったイメージです。特にシグナルストップから再スタート時には、昼間と同じ回転数からのスタートでは何となくギクシャク感があります(回転数を上げ、クラッチミートに気を配ることで解消)。中高回転域では「もう少し濃くてもいいかな?」と感じる程度で、特に問題なく走ってくれました。
今回の作業のまとめ
使用した工具
セッティング変更に使った工具は、3mmの六角レンチ、大きめのマイナスドライバー、細めのマイナスドライバーとプラスドライバー。メインジェットはTM-MJN用が各サイズリリース中。
固定バンドを緩め、ラバーマニホールドからキャブレター本体を取り外します。取り外し前にはあらかじめ燃料コックをOFFにし、フロートチャンバーボディの底にあるマイナスボルトを緩め、ガソリンを抜いておきます。
六角レンチを使い、ガソリンを溜めるためのフロートチャンバーボディを取り外すと①メインジェットが姿を見せます(大きめのマイナスドライバーで交換)。今回は82.5♯、85♯、87.5♯、90♯の4種類を試してみました。
スロージェットは②の中にセットされています(細めのマイナスドライバーを挿入して交換)。
メインジェットは87.5♯に設定しましたが、中速域にてやや谷間があります(一瞬、ブブゥゥと失速気味になる)。この現象を改善するため、まずはトップカバーを取り外し。次にスロットルバルブを露出させます。
スロットルバルブからスロットルケーブルを取り外した後、細めのプラスドライバーを使ってジェットニードルとスロットルバルブを分離させます。
ジェットニードルクリップを一段上げ、低中速域の混合気をやや薄めに設定したところ。クリップの位置を上にすればジェットニードル本体が下がって混合気は薄めになり、クリップの位置を下にすればジェットニードル本体が上がって混合気は濃くなります(下記イラストを参照)。
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