2ストエンジンよりも精密な4ストエンジンは、排気バルブと吸気バルブを備えているのがポイント。今回はバルブ回りを分解・組み付けするための専用工具「バルブスプリングコンプレッサー」、バルブの擦り合わせを行う「タコ棒」を使い、モンキー・ゴリラのシリンダーヘッドを徹底的にメンテナンスしてみます。
バルブスプリングコンプレッサーって何?
「バルブスプリングコンプレッサー」とは、バルブスプリングを縮めて吸排気バルブ回りを分解・組み付けするための専用工具。物を挟み込むための工具「万力」によく似た構造&形状が特徴です。
▲写真のバルブコンプレッサーは、モンキー・ゴリラ系の横型エンジン、エイプ系の縦型エンジン等々、様々な4ミニエンジンに対応するミニバイク用。収納ケース、バルブスプリングコンプレッサー本体、プッシュバー2種類(90mm、50mm)、アタッチメント5種類(内径14mm、16.5mm、21.5mm、23.5mm、28.5mm)が1セット。
バルブスプリングコンプレッサーは、
①吸排気バルブ回りの掃除や、バルブステムシールなどの消耗パーツを交換したい
②吸排気バルブを削って軽量化したい
③バルブシートを削って吸排気バルブのフリクション低減したい
④吸気ポートを削って吸気効率を上げたい
等々の折に使用。
バルブスプリングコンプレッサーは、吸排気バルブ回りのメンテナンスやチューニングには欠かせないアイテム。「吸気ポートと吸気バルブは、こうやってつながっていたんだ」等々、バルブ回りの分解は、エンジンの構造がよく理解できるのもポイントです。
モンキー用シリンダーヘッド、バルブ回りの分解作業
今回作業するのは、12Vモンキー・ゴリラの腰上にあるシリンダーヘッド(純正)。腰上とはシリンダーヘッドとシリンダー、またその中に組み込まれているピストンなどの総称。ちなみに腰下とはクランクケース部分の呼び名。人間の体に例えた呼び方です。
シリンダーヘッドの燃焼室に付着したカーボンを落とします。今回は燃焼室にキャブクリーナーを直接吹き付け、金属に優しい風呂床掃除用のナイロンパッドで擦り、最後に目の粗いタオル地のウエスで掃除。表面に傷を付けることなく、キレイに仕上げることができました。
吸排気バルブ回りを分解するには、ロッカーアームを取り外す必要があります。取り外しには12mmボルトを使用します。
まずはロッカーアームシャフトが収まっている孔に12mmボルトを挿入し、軽く締めます。
そのまま12mmボルトを引き抜けば、ボルトに接続されたロッカーアームシャフトが姿を現し、ロッカーアーム本体が外れます。
バルブスプリングコンプレッサーの使い方
バルブスプリングコンプレッサーの両端にあるプッシュバーに、適切なサイズのアタッチメントを取り付けます。
下記のように吸気バルブのバルブフェイス(燃焼室側)とバルブスプリングリテーナー(スプリング側)にアタッチメントを固定し、バルブスプリングコンプレッサーをセットします。
この状態でバルブスプリングコンプレッサーのハンドルを締め込めば、バルブスプリングが縮まる→バルブコッターというパーツが外れる→吸気バルブが外れます。
写真上はどちらもバルブスプリング部分。
バルブスプリングコンプレッサーのハンドルを締め込むと、バルブを開閉させるためのバルブスプリングがギュ~っと縮まります。
このスプリングが縮まるとバルブが開く、スプリングが戻るとバルブが閉じるというしくみです。
バルブコッターの取り外し
バルブスプリングが縮まると、バルブ回りを固定している2個のバルブコッターがポロリと外れます。
再度組み付ける場合は、バルブスプリングを締め過ぎず、ラジオペンチ等を使い、2個のバルブコッターを均等に配置するのがポイントです。
写真下はシリンダーヘッドから取り外したバルブスプリングとバルブコッター。
吸気バルブと排気バルブのメンテナンス
2個のバルブコッターが外れると、バルブ本体が完全にフリーの状態になります。
吸気バルブ、排気バルブ、バルブスプリング、バルブコッターなどバルブ回りがすべて外れたところ。
排気バルブのフェイス回りには大量のカーボンが付着。ウエスで拭いただけでは、汚れは取れません。
そこで今回は、電動リューターのチャックにバルブステムを固定して回転。バルブに傷を付けないよう、ワイヤーブラシを軽く当てながらカーボンを削ぎ落としました。
バルブに付着したカーボンを除去することで、バルブ開閉時のフリクション(抵抗)を軽減することができます。
タコ棒でバルブを擦り合わせ
バルブスプリングコンプレッサーを使ってバルブ回りを分解し、バルブに付着したカーボンを除去した後は、「タコ棒」という工具でバルブの擦り合せ&当たりの確認作業を行います。
4ストエンジンは吸気・圧縮・爆発・排気の4工程を反復し、幾度となくバルブの開閉を繰り返します。その結果、特に走行距離の伸びたエンジンは、バルブフェイスやバルブシートが痛み、微妙なすき間から圧縮が漏れてしまう場合があります。
今回実施する「バルブの擦り合せ」「バルブの当たりの確認」とは、吸排気バルブのフェイス(傘の部分)と燃焼室側のバルブシート(フェイスが密着する部分)の圧縮漏れを正す作業。
ビギナーの場合、タコ棒の叩き付け&回転の力の入れ具合、バルブフェイスとバルブシートの当たりの確認等々、コツをつかむまでに時間を要します。
▲今回使用したタコ棒は、モンキー・ゴリラ系の横型エンジン、エイプ系の縦型エンジン等々、バルブフェイス経の小さな4ミニエンジンに最適なタイプ。
▲別名・バルブラッパーとも呼ばれるタコ棒。まずは吸盤をバルブフェイスに密着。次にバルブフェイス(燃焼室側にあるバルブシートとの密着部)にバルブコンパウンドを薄く塗布します。
▲バルブステムにオイルを少量塗布し、シリンダーヘッドのガイドに差し込んだら、いよいよバルブの擦り合せ作業を開始。タコ棒に吸い付かれたバルブをバルブシートに「カンカン」と叩き付けつつ、クルリと回転させます。
熟練したチューナーは、片手でリズミカルに「カン(叩き付け)、クルッ(回転)、カン(叩き付け)、クルッ(回転)」と作業していましたが、実際にやってみるとなかなか難しいです。
時間はかかりますが、両手で確実に擦り合わせをします。バルブフェイスとバルブシートの接触面に凹凸がなくなったら、パーツクリーナー&ウエスを使い、各部に残ったバルブコンパウンドを完璧に除去。
ちなみにプロは最終チェックとして「光明丹」という赤色塗料をバルブフェイスに塗ってバルブシートに押し付け、当たり具合をチェック。光明丹の付着具合により、肉眼では見えない接触面の凹凸の有無を確認します。
チューナーによっては光明丹を使わず、まずはシリンダーヘッドにバルブとプラグをセット。次に燃焼室へ灯油を注ぎ、吸排気ポートに灯油が滲んでいないかを確認する人もいます。