ホンダのV型4気筒DOHC400ccレーサーレプリカ・VFR400Rが、市販車初のプロアーム化
Honda Collection Hall 収蔵車両走行ビデオ HONDA VFR400R(1987年)/ホンダ公式チャンネルより
ホンダ VFR400R……1987年(昭和62年)発売
足周りも大幅に進化。最大トルクは400ccクラス最高の4.0kgm/1万rpmを実現
1987年(昭和62年)3月、水冷4ストロークV型4気筒DOHC399ccエンジンを搭載したVFR400Rが進化して登場。
新型はレースで培った新技術の片持ち式リヤフォーク(商標名・プロアーム)や、大径Φ276mmのフローティング(浮動式)ダブルディスクブレーキなど、装備もさらに充実した。
VFR400Rに新採用された後輪懸架装置のプロアーム(片持ち式リヤフォーク)は、世界耐久選手権で1985年・1986年の2年連続チャンピオンを獲得したレースマシン「RVF750」の最新技術を投入したもの。ホイール着脱の容易さや、チェーン調整の簡便化を可能とした構造が特徴だ。
フロントにはフローティング(浮動式)の大径ダブルディスクを採用。ホイールデザインも前輪は6本スポーク、後輪は8本スポークに変更。リヤホイールのリム幅は前モデルの3.00から3.50にサイズアップ。またシート形状は前後分離タイプとなり、スポーツ性を強調した装備にチェンジされている。
エンジンは、全日本ロードレース選手権T・T・フォーミュラ3の国際Aクラスで圧倒的な強さを誇ったレースマシン「RVF400」と同型の量産仕様。水冷4サイクルDOHC 90度V型4気筒399ccのエンジンは、吸排気効率を徹底追求し、400ccクラス最高の最大トルク4.0kgm/1万rpmを実現。
キャブレターの口径はΦ30mmからφ32mmに大径化し、排気系には大容量で効率の良いマフラーを採用。これらにより低回転域から高回転域まで俊敏で応答性に優れた、力強い出力特性を発揮。カムシャフトの駆動は、ギヤ(歯車)で動作させるホンダ独創の「カム・ギヤトレーン式」が採用されている。当時の発売価格は、前モデルに対して2万円高の67万9000円となった。
1987年(昭和62)発売当時のVFR400R プロアーム仕様を振り返る
筆者は1986年(平成61年)10月に、前モデルの「NC21」を新車で購入。その5ヶ月後、プロアームを装備した新型の「NC24」が発売された。
空前のバイクブームだった当時は、矢継ぎ早にNEWモデルが発売され、不人気モデルは早々に消えていった。人気モデルのモデルチェンジも非常に早く、VFR400Rも初期型の発売からわずか1年でプロアーム採用車が登場。
購入からわずか半年で「前モデルのオーナー」となった当時の筆者は、周囲には「オレはツインのスイングアーム派。新型はリヤ部のスカスカ感が安っぽいね」「レーサーを意識し過ぎたシート形状はタンデムがダメだね(タンデムは実際に前モデルの方がしやすかった)」などとうそぶいていたが、本心は「あと半年待てば良かった………」と思ったのは言うまでもない。
プロアーム採用のVFR400Rは人気があり、発売以降は街中でも頻繁に見掛けた。特にホンダワークスカラーのロスマンズ仕様(下記)は、ワークスレーサーがそのまま公道を走っているようで、非常に目立っていた。
当時はストリートでも革ツナギを着て走るライダーが当たり前にいて、ロスマンズ仕様のVFR400Rに、鈴鹿8耐にも出場した大人気の世界GP500ccライダー「ワイン・ガードナー」仕様の革ツナギで走る、「なりきりガードナー」も多数出没した。
ホンダ4ストワークスの代名詞でもあった水冷V型4気筒エンジン搭載のVFR400Rは、市販車最高峰の400ccとして定着。その後もホンダの4スト400ccスポーツの最高峰として、さらに磨きを掛け、進化を遂げていった。
「ロスマンズ・ホンダ・チーム」の特別カラー仕様車……1987年(昭和62年)7月
世界GPで活躍していたホンダワークスの「ロスマンズ・ホンダ・チーム」の特別カラー仕様車を追加発売。当時の発売価格は68万9000円。
「ロスマンズ・インターナショナル社」は、ヨーロッパを中心とし二輪・四輪のモータースポーツ活動を積極的に援助していた、英国のタバコメーカー。1985年からホンダ・レーシング(HRC)とスポンサー契約を結び、世界GP500ccクラスや耐久選手権活動などをスポンサードしていた。
燃料系統を見直し、ハイパワー&高トルクを獲得
VFR400Rには、速く走るために生み出された「Force V4」の水冷4サイクルDOHC90度V型4気筒16バルブエンジンを搭載。高回転で高出力を実現する最先端テクノロジーの「カム・ギアトレーン」を採用し、最高出力59ps/12,500rpm、最大トルク4.0kg-m/10,000rpmを発揮する。
VFR400Rは高出力と高トルクを両立させながら、市販車としては困難とされていた、1リッター当たりのトルク=10kgm(前モデルの1986年型は9.27kg-m)を実現。当時、これは400cc 4サイクルスーパースポーツでは最高の数値だった。
全域に渡って向上したトルクは、圧倒的な加速感とアクセルを開けた瞬間に反応する鋭いレスポンスを獲得。この圧倒的な走りはエンジンの吸・排気系、点火系という燃焼システムの徹底的な見直しから生まれた。
吸気系のポイント
排気系のポイントは、「エアファンネルの採用」「キャブレターのサイズアップ」「バルブタイミングの変更」の3つ。
エアクリーナーから、キャブレター、燃焼室までの吸気系を一直線に結ぶ、ストレートインテークを採用。このストレートポートの形状を変更させるとともに、インレットバルブ径をφ21.5mmからφ22.0mmにサイズアップし、混合気の充てん効率を向上。
また、エアファンネルを新採用し、吸入効率を高めるとともに、8,000rpm以上のトルクのアップを実現。加えてキャブレターのサイズを従来のφ30mmからφ32mmに変更。さらに、底面R付の「バキューム・ピストン」を採用し、10,000rpm以上のトルクアップとパワーの伸びを実現。バルブタイミングや圧縮比も見直されている。
排気系のポイント
排気系の最大のポイントは、マフラーのボリュームアップ。ハイポテンシャルなエンジン性能を発揮するためには、バランスのとれた吸排気機能が必要不可欠となる。VFR400Rは吸気効率のアップに伴い、それに見合った高い排気効率を実現するため、エキゾーストシステムの大幅な見直しを実施。
テールパイプ径をこれまでのφ26.5mmからφ28.6mmに変更し、マフラーボリュームを全体で従来の2.8Lから3.2Lに容量アップ。これにより、吸排気機能のバランスを確保するとともに、かつてない燃焼効率を実現した。
点火系のポイント
点火系には「デシタル・イグナイター」を採用。強烈なエンジンパワーを発揮するためには、点火系も重要な役割を果たす。VFR400Rは点火システムを、従来のアナログ式からデシタル式へ変更。マイクロコンピューターを使用し、各回転速度での最適点火時期を正確に実現することにより、出力を最大限に引き出すことに成功した。
動弁系の軽量化と摺動抵抗の軽減でフリクションロスを低減
VFR400Rは大幅なトルクアップとともに、高回転域でのパワー特性をさらに向上させるため、動弁系のフリクションロスの徹底低減を推進。
クランクシャフトからの駆動力をダイレクトにカムシャフトに伝達するため、前モデルより「カム・ギアトレーン」も採用されている。
また、高回転時の正確なバルブ開閉時期を実現するとともに、フリクションロスを大幅に低減。さらに吸排バルブのステム径をφ5mmからφ4.5mmへ細軸化。動弁系の軽量化と摺動抵抗の軽減で、フリクションロスを低減している。
こうして実現したフリクションロスの徹底低減は、エンジンの高回転化に寄与。レッドゾーンの入り口や、14,000rpmという高回転エンジンはここから生み出された。
片持ち式のプロアームなど、足周りを大幅に刷新
レースで培ったテクノロジーを市販車に投入
ホンダのレース部門である「HRC(ホンダ・レーシング)」は、片持ちスイングアーム「プロアーム」を、1985鈴鹿8H耐久レースよりRVF750に、そして1986日本GPよりRVF400に採用。タイヤ交換の短縮化や軽量化など、圧倒的な強さを発揮した。
この最先端技術を、いちはやく採用したのが新型のVFR400R。市販のスーパースポーツ(チェーン駆動タイプ)としては初採用だった。
プロアームのメリットは、
・ホイール交換の簡便さ
・チェーン調整の容易さ
・リヤ側エキゾーストパイプの取り回しの良さ
・スイングアームの軽量と高剛性化
前後ディスクブレーキもさらに強化
フロントにはフローティングWディスクブレーキを採用。ブレーキディスクは前モデルよりもφ256mmからφ276mmに大径化し、マスターシリンダーとキャリパーのロスストローク量とロールバック量を減少。加えて高速域での効力を向上させたパッド材質の採用により、コントローラブルで高いブレーキ効力を発揮する、よりソリッドな効き味を実現。また、視覚的にもマスターシリンダーのリザーバータンクを別体とし、レーシングイメージをアップしている。
リヤもディスクローターをφ220mmからφ240mmに大径化し、従来のツーポットキャリパーからワンポットキャリパーへ変更することでトータルでの軽量化に貢献した。
ホイールはHRCワークスマシンと同じデザイン
前後ホイールはHRCワークスレーサー「RVF」と同じデザインのアルミキャストホイールを採用(フロント6本スポーク、リヤ8本スポーク)。リヤホイールのリム幅は、前モデルの3.00から3.50にアップ。
タイヤはさらにレーシーな新トレッドパターンを採用。タイヤはフロント100/90-16、リヤ130/70-18の各サイズをチョイス。
シフトフィーリング、サウンド(排気音)、ライディングポジションは?
クイックなスポーツ走行に大きな影響を与えるシフトフィーリング。VFR400Rはチェンジストロークをより短くして、小さなアクションでも確実なシフトダウン&アップが可能となり、さらにスポーティな走りを実現。
エキゾーストノートは、テールエンドにストレートパイプの共鳴管を採用することで、体感サウンドはワークスマシンのRVFフィーリング。低音で響く重厚音質は、Force V4の証明。視覚的にもRVFと同じステンレス製テンパーカラーのエキゾーストパイプを採用し、サチライトコーティング&リベット処理を施したサイレンサーも装備済み。
ライディングポジションはストリートでもベストなライディングポジション。ハンドルグリップの下げ角、またステップ位置を見直し(約10mmダウン)。シートはレーサーをイメージしたセパレートタイプを採用。
また、ニューデザインのエアロバックミラーの、ジュラ鍛製ピリオンステップ、フライス加工のトップブリッジなど、細部の装備もグレードもアップしている。
ホンダ VFR400R プロアーム【NC24】 主要諸元
型式 | NC24 | |
全長(m) | 2.010 | |
全幅(m) | 0.690 | |
全高(m) | 1.125 | |
軸距(m) | 1.375 | |
最低地上高(m) | 0.130 | |
シート高(m) | 0.770 | |
車両重量(kg) | 183 | |
乾燥重量(kg) | 164 | |
乗車定員(人) | 2 | |
燃費(km/L) | 44.2(60km/h定地走行テスト値) | |
最小回転半径(m) | 2.8 | |
エンジン型式 | NC13E・水冷4サイクルDOHC4バルブV型4気筒 | |
総排気量(cm3) | 399 | |
内径×行程(mm) | 55.0×42.0 | |
圧縮比 | 11.3 | |
最高出力(PS/rpm) | 59/12,500 | |
最大トルク(kg-m/rpm) | 4.0/10,000 | |
始動方式 | セルフ | |
点火方式 | フル・トランジスタ | |
潤滑方式 | 圧送飛沫併用式 | |
潤滑油容量(L) | 3.1 | |
燃料タンク容量(L) | 16 | |
クラッチ形式 | 湿式多板コイルスプリング | |
変速機形式 | 常時噛合式6段リターン | |
変速比 | 1速 | 3.307 |
2速 | 2.352 | |
3速 | 1.850 | |
4速 |
1.545
|
|
5速 | 1.333 | |
6速 | 1.227 | |
減速比(1次/2次) | 2.117/3.000 | |
キャスター(度) | 26°10′ | |
トレール(mm) | 96 | |
タイヤサイズ | 前 | 100/90-16 54H |
後 | 130/70-18 63H | |
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ダブルディスク(フローティング) |
後 | 油圧式ディスク | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック(円筒空気バネ併用) |
後 | スイング・アーム(プロアーム) | |
フレーム形式 | ダイヤモンド |