レーシーなホンダ(HONDA) MONKEY R [モンキーR]

モンキーには兄貴分のゴリラのほか、いくつかの兄弟がいる。それはモンキーRとモンキーRT。絶版となった今でも高い人気を誇るこのモデルをクローズアップしてみよう。

1987年(昭和62年)3月 モンキーR(Z50JR-H)
型式:A-AB22-1000017~

絶版後に人気者となったモンキーのスポーツモデル、モンキーR

「HY戦争」から「パワー競争」の時代に突入

1980年代といえば、日本経済、そしてバイク業界も賑やかで華やかだった時代。1977年にヤマハが女性向けの50ccスクーター「パッソル」を市場に投入して以来、各社が競い合うように様々な50ccスクーターをリリース。これをきっかけに、50ccスクーターの販売台数はウナギ昇りとなり、街にはスクーターを普段の足とする若い女性や主婦層が急増。「バイク=若い男子の乗り物」というイメージは払拭されつつありました。

50ccスクーターの急増は、ホンダとヤマハがバイクの販売台数を競い合うという「HY戦争(※注1)」へと発展。両社の戦いは、ヤマハが敗北宣言を表明する1983年初頭まで続き、時代は熾烈な「パワー競争」へと流れていったのです。

※注1:「HY戦争」とは1970年代終盤から1980年代前半に起こった、ホンダとヤマハとの凌ぎを削るバイクの販売台数争い。普段の足として当時爆発的な人気を誇った50ccスクーター、10代・20代をターゲットにした250ccモデルや400ccモデルなど、両社からは次々とニューモデルが発売された。

レーサーレプリカこそナンバー1の時代

1983年、それまで国内で認められていなかった「カウル」付きのモデル、スズキRG250ガンマが登場。2ストのハイパワー45psエンジンを搭載した同モデルは、瞬く間に人気を獲得。これを追うように、各社とも中型免許で乗れる(当時の大型二輪免許は試験場でしか取得できず、合格率は数パーセントという狭き門だった)、サーキットから飛び出してきたようなカウル付き2スト250ccモデルや4スト400ccモデルを市場に投入。これらのモデルは「レーサーレプリカ」と呼ばれ、若者を中心に大ヒットし、レーサーレプリカブームが始まりました。

レーサーレプリカブームは「パワーがあって速い・高速コーナーでも安定して曲がる・高速からでもしっかりと止まる・カウルを備えたレーシーなスタイリング=レーサーレプリカこそナンバー1」という図式を生み出し、巷のレーサーレプリカ熱はさらに加熱。1980年代中盤には、2スト50cc=7.2ps、2スト250cc=45ps、4スト400cc=59psの超ハイパワーモデルが次々に登場しました。

その頃、若者たちのバイク熱はサーキットにも波及し、レース人口は急増。全国各地のカートコースやレクリエーション施設内では、50ccスクーターや50ccミッション車を対象にした、誰でも手軽に参加できる「ミニバイクレース」が積極的に開催されたのです。

1987年、モンキーR登場

そんな熾烈なパワー競争とレース人気の真っ只中にあった1987年、一台の4ストミニが誕生。その名はモンキーR。このモデルは「モンキー」という名称ながら、モンキーとは思えない「R(レーシング)」な装備が導入されたのです。

フレームは、モンキーRの登場から2ヵ月後に発売される、NSR50/80のベースにもなった高剛性のスチール製ツインチューブフレーム(モンキーにツインチューブフレームを採用するとは、今から考えれば驚きの一言です)。

足回りも非常に豪華。フロントフォークは油圧ダンパー入りの正立型で、インナー径は30φサイズをチョイス。前後のホイールは、8インチから10インチにサイズアップ。軽量なコムキャスト型のチューブレスホイールを装着しているのもポイント。

スイングアームはツインショック型ではなく、スチール製角パイプを使用したモノショック型に変更。フロントにはディスクブレーキを採用するなど、スポーティーな本格派システムを随所に導入。

モンキーRの最高出力は4.5ps

エンジンは1987年当時、すでに12V電装&CDI化されていたスーパーカブがベース。シリンダーヘッドのポート径拡大、ウエスト加工によって計量化された吸排気バルブ、低フリクションを実現する両端ボールベアリング入りのカムシャフト、キャブレターやマフラーなどの改良により、歴代モンキーの中では最高出力となる4.5psまでパワーアップされています

ミッションはモンキーと同じ4速ですが、1速から3速のギヤ比は、後年12Vモンキーに採用されるものと共通。低めに設定されたスワローハンドル、シャープなイメージのシングル風シート、レーシーなポジションのバックステップなど、レーサーレプリカ全盛期を反映したアイテムが盛りだくさん。

モンキーRは「モンキー」というネーミングながら、既存のモンキーとはまったくの別物なのが分かります。

→ モンキーRとスーパーカブ

モンキーRの運命を左右した「スズキGAG」

モンキーRを語るには、スズキGAGは外せない存在。モンキーRが発売された前年の1986年、スズキからGAGが発売。モンキーRと同じ4ストエンジンを搭載したGAGは「ギャグ(冗談)」という名の通り、同社の本格派レーサーレプリカモデルであったGSX-R750やGSX-R400のパロディーとして位置付けられていました。

GAGの存在は「ギャグ」ながら、フレームや足回りは非常に充実。フレームは剛性の高いツインチューブ。フロントに26Φ正立フォーク、リアに角型スイングアーム&シングルダンパーサスペンションを組み合わせ。ホイールは前後とも2.50Jの10インチキャストを採用。エンジンはバーディーベースの5.2ps。ミニバイクレースシーンでも活躍するなど、当時はそのポテンシャルの高さを各所で証明していました。

見る者に強烈なインパクトを与え、ミニバイクレースでも活躍したGAGでしたが、パワー至上主義のストリートユーザーの間では「小さなGSX-R」と呼ばれることは少なく、むしろ「大きなポケバイ」と揶揄されることが多かったです。

各メーカーが威信をかけた熾烈なパワーバトルを繰り広げている最中、その緊張感をほんの一瞬和らげるかのように市場に送り込まれたミニレプリカモデル、GAG。ただし1986年に登場した空冷2ストのYSR50(ミニバイクレースではGAGのライバル車だった)、そして1987年に登場した水冷2ストのNSR50ほどの人気は出ず、GAGは発売からほぼ1年で絶版となりました。

絶版後に人気急上昇したモンキーR

モンキーRが登場した時、多くのユーザーが驚きとともに、戸惑いを見せました。モンキーといえば、一部では改造してレースに出ていた人はいたものの(4ストは2ストに比べ、コストが高くてお金がかかった)、トコトコとのんびり走る、もしくはカスタムそのものを楽しむイメージ。

また、モンキーはすでにコアなファンを数多く抱えた大御所モデル。加えて発売されたのが「あの」GAG発売の翌年。「モンキーのRバージョンって…。次はモンキーのパロディーか?」GAGの存在をオーバーラップさせたユーザーは、モンキーRの存在に戸惑い、また古くからのモンキーフリークの中には、モンキーRの存在に多少なりとも疑問符を抱いたのです。

その戸惑いや疑問符の解決、つまりモンキーRの性能や奥深さを知るには、ある程度の時間が必要でした。しかし世は、次から次へとニューモデルがリリースされる空前のバイクブーム…。

モンキーR発売からわずか2ヵ月後、7.2psの2スト水冷エンジン&前後ディスクブレーキを装備した本格派2ストスポーツミニ、NSR50がデビュー。ストリートユーザーはもちろん、レースユーザーの目は「ワークスマシン、NSR500の2/3サイズモデル」を謳った過激なNSR50に集中。

その影にすっかり隠れてしまったモンキーRは、1988年にアップハンドルやリアキャリア等を装備した「モンキーRT」を追加発売するものの、人気に火が点くことなくひっそりと姿を消していったのです。

→ 2スト水冷エンジン搭載のNSR50/80

→ 2ストレーサーのNSR-Mini、4ストレーサーのNSF100

しかし数年後にやってきたモンキーブームとともに、モンキーRの人気は皮肉にも急上昇。その希少性から、程度の良い車両は現在でも高値で取引されています。

モンキーRはまさに「時代を先取りした4ミニ」といえるでしょう。

カラーは黒/赤ツートンのほか、白/赤ツートンもラインナップ。

ダウンマフラーに変更してイメージチェンジしたモンキーR。

CY7C0020

スチール製ながら高い剛性を誇るツインチューブフレームを採用。このフレームはNSR50用フレームのベースとなったもの。15万9000円という価格ながら、スタンダードなモンキー(当時の価格は12万2000円)とはまったく異なるゼイタクな装備が満載されていた。

CY7C0075
CY7C0057

インナー径30φのFフォークを装備。フロントホイール、ディスクローター、キャリパーはスクーターの「リード系SS」と共通。

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CY7C9981

スポーツ走行にも対応する本格的なモノショック型スイングアームを採用。リヤショックは220mmでNSR50/80用と互換性あり。カスタムパーツのようなエアロ風フェンダーも装備。

CY7C0112

ライディングスピリッツを駆り立てる低めにセットされたスワローハンドル。写真は社外アルミトップブリッジ変更車。

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メッシュ&肉抜き加工された独自のジェネレーターカバー。バックステップも標準装備。

CY7C9996
CY7C0354

 ニュートラルランプを点灯させるため、ガソリンタンクの下部に2Vのカードバッテリーをセット。6Vや12Vバッテリーは搭載していない。

CY7C0323

どちらもモンキーR用マフラーのエキパイ部。写真上がノーマル、写真下が社外品。ノーマルは熱対策のための二重管構造。そのため社外品よりもかなり径が太く見えるのが特徴。

CY7C0335

ノーマルのサイレンサーエンド部。排気口を囲むように6つの模様がデザイン。この模様部分をドリルで穴開けすると、70cc程度の排気量アップならばスムーズに排気。当時の開発者の「遊び心」が垣間見える一コマ。

●スペック

全長:1510mm/全幅:610mm/全高:800mm/乾燥重量:67kg/燃料タンク容量:7ℓ/エンジン形式:空冷4サイクルOHC単気筒49cc/最大出力: 4.5ps/8500rpm/最大トルク: 0.42kgm/6500rpm/圧縮比:9.8/変速機:4速リターン/クラッチ形式:マニュアル式/タイヤサイズ:前後3.50-10/発売価格(当時):15万9000円 

モンキーRのフレームと足回りをベースに開発が行われた「モンキーRの弟分」、NSR50。ミニバイクレースの立役者ともいえるモデルだ。

→ 2スト水冷エンジン搭載のNSR50/80

1988年(昭和63年)3月 モンキーRT(Z50JR-JII)
型式:A-AB22-1007601~

オフテイストにフォルムを変更

モンキーRをベースに、アップハンドル、リアキャリア、アップ型フロントフェンダー、スタンダードポジションのステップ、専用シート、セミブロックパターンタイヤを採用したバリエーションモデル。モンキーとは一味違ったオフテイストにアレンジしている。

モンキーRと同じく、当時は人気に火が点くことはなく、マイナーチェンジもないまま生産終了。ただし絶版となった数年後、モンキーブームとともにモンキーRTは再評価。モンキーR同様、その希少性から程度の良い車両は現在でも高値で取引されている。

●スペック

全長:1510mm/全幅:750mm/全高:900mm/乾燥重量:69kg/燃料タンク容量:7ℓ/エンジン形式:空冷4サイクルOHC単気筒49cc/最大出力: 4.5ps/8500rpm/最大トルク: 0.42kgm/6500rpm/圧縮比:9.8/変速機:4速リターン/クラッチ形式:マニュアル式/タイヤサイズ:前後3.50-10/発売価格(当時):16万5000円

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2 件のコメント

  • 猿親父 より:

    RTのEngOilを交換しようとして、誤ってカムチェーンテンショナー側のボルトを外してしまい、中からスプリングが飛び出してきた。筒状のものは出ず。とりあえず、元通りに組み付け、正規のOilドレンボルトを外しOil交換終了。気になってネット等で「カムチェーンテンショナー」なるものを調べると、様々な書き込みが・・・。「Engをかけずに今すぐショップへ」とか、「元通りに組み付けられればOK」とか、正解はどうなんでしょう?  今のところEngはふつうにかかります。異音もありません。走行も良好です。よきアドバイスをお願いします。

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